闘いの無い時は 4



旧校舎前にて


今日も今日とて旧校舎。まだ降りるメンバーは全員集まっていなかった。

「あ、これこの前頼まれてた符な、忘れんうちに渡しとくわ」
「ありがと〜〜ミサちゃん感激〜〜」

劉と裏密。オカルト仲間という醍醐あたりが卒倒しそうな関係だが、結構うまが合っていた。

「しっかしホンマけったいなねーちゃんやな、普通集めんでこんなモン」
「うふふふ〜おかげでミサちゃんコレクションが更に充実したの〜。今度何かお礼するね〜〜」
「へへッ、嬉しいけどなんや怖い感じすんな……ところで」

ここで目つきが真剣になる

「なんや向こうから妙な氣が流れてくるんやけど…」

そう、ちょっと離れた桜の木の後ろ辺りから。
こちらを監視しているのだろうか?ほんの少し殺意が混ざっているようであった。
しかし裏密はまったく動じていない。
「気にしないで〜〜単なるミサちゃんの敵対勢力だから〜〜」
「なんやそれ?」

意味が分からず、きょとんとしてしまう劉であった。

その時桜の木の下では

「フッ…他の者との仲を見せる事によりこちらの気持ちを煽るとは、なかなか高等な技をつかいますね…流石です」
「つーかお前、なにやってんだ……?」
「晴明様……」

木の蔭から旧校舎の方を覗いている御門に、呆れ顔の村雨と主人の行動が理解出来ていない芙蓉が声をかける。

「何をしていると?見ての通り男女間の高度な心の駆け引きを楽しんでいるのですよ。木の蔭から相手を見るのは、まあ<形式>のようなものです。わかるでしょう?」
「わかってたまるか!どっから仕入れたそんな知識」
「御意」
「ってわかっちまったのかよ、オイ」

それでも、そもそも相互で成り立ってんのかソレ、という致命的なツッコミは入れられない、結構心優しい所のある村雨であった。
もっとも言ったところで<フッ当然です>と根拠も無く切り替えされるだけなのだが。





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桜ヶ丘病院にて


「なに編んでいるのぉ、紗夜ちゃん?」

休憩時間に一生懸命編み物をしている比良坂に高見沢がつい声をかける。
単なる趣味にしては、あまりにも表情が真剣だったので。

「…セーターですっ!」

答える声もやけに気負っている。
そんな彼女を面白そうに見守る藤咲。知り合いの見舞いに来ていたのだが、どうやら事情を知っているようだ。兎に角聞いてみる。
「どうしちゃったのぉ?いったい」
「…お礼だって。この前壬生がセーターをくれたんだってさ」
「へぇ〜〜」

そういえば紗夜ちゃんが<着る服が少ない>という話をしていた時、たしか彼も居合わせていた。なるほど壬生くんに、だからあんなに気合が…

「しかもそれがさ、すっごい出来なんだよ。ほら、昨日着ていたやつ」
「え〜っ!あれ買ったんじゃないの?」

あれはどう見てもプロの仕事だろう。十分お金が取れる品だった。そうか、それで対抗意識が芽生えちゃったんだ…

「あと…ね、如月骨董品店で店主が同じようなセーターを持っていたという噂があって……」
「…が〜んばぁって〜」

心からの応援。なんというか、これは負けられない勝負だろう。
その声が聞こえているのかいないのか。編む手はまったく休まない。

『私がんばりますっ!見ていて、兄さん…』

こんな事を見てろと言われても……と、あの世で兄が絶対困るような事を考えていた。

ちなみに…

「だからな、壬生。この前依頼した品はすぐに買い手がついたんだ。あの質ならば必ず人気商品になるぞ。ちょっとした稼ぎとなるが」
「家計の足しになるのはありがたいんですが、いいんですか?骨董品店でこれ売っても?」
「フッ…皆がよってたかって雑貨やらジャンクフードやら売り買いしにくるからな、今更その心配は無用だ……そうだ、この人が編みましたと書いて生写真をつければ更に売り上げが…」
「き、如月さん?」

すっかり商人の顔となった如月と、編んだセーターの商品化に困惑する壬生。
病院でおかしな噂を立てられている事に気付くはずもなかった。





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ヒーローショウ会場にて


今回も大成功に終わったヒーローショウ。その片づけもせずに一人黙々とペンを走らせているコスモブラックがいた。

「何をしているんだ?黒崎は」

やや不服そうに呟く醍醐。強引に手伝いの約束をさせられた上、身体を見込まれて力仕事全般を押し付けられているのだ。せめてこの荷物運びぐらいはやって欲しい。

「手が空いているならこっちを…」
「あ、ゴメンゴメン。ブラックは今ちょっと忙しいの」
「替わりに俺ッちが手伝うぜ!」

呟きが大きかったらしい。レッドとピンクがフォローに入る。
そのタイミングの良さを驚く醍醐。その後の彼らの台詞にさらに驚かされる。

「あれね、頼まれているサインなのよ」

そういわれてもにわかに信じられない。座っている黒崎とほぼ同じ高さのものが、すべて色紙なのだそうだ。

「…というと、コスモレンジャーに対してのか?」
「いや、それなら俺ッちが一番なんだけど…」

かなり悔しそうに話す紅井の様子に苦笑を浮かべながら続ける桃香。

「コスモブラックに対してのも確かにあるけどね。大部分は<フィールドの貴公子黒崎 隼人>のサインが欲しいって…断りきれないのよね」

彼は高校サッカー界でもヒーローであった。特撮おたくで忍者フリークだが、外見は知的な二枚目でありそのキック力とスピードは他の追随を許さない。そしてコスモブラックとしての体験から、観客を魅了する術を会得していた。
多分仲間の中で舞園 さやかの次ぐらいには有名人であろう。
もっとも普段付き合う分にはとてもそうは感じられないが。

「この間のサッカー雑誌に<海外クラブからオファーが?>なんてガセネタが載っちゃったから、いろんなとこから色紙送られてくるのよねえ…あら、どうしたのレッド。もしかして羨ましい?」
「べ、別に羨ましくなんか無いぞっ!!俺ッちはチビっ子達の声援があればそれで大満足なんだ。羨ましくなんか……」

焦る所を見ると、どうやら図星のようである。思わず笑みがこぼれてしまった。

『…羨ましくない、か…』

彼らの声は全て聞こえていた。まあ別に内緒話をしている訳では無いので、聞こえても当然なのだが。

『…俺はお前が心底羨ましいけどな…』

サインを書き続けながら視線を上げる。
彼にとってこの色紙を待つ何十人、何百人という人達は大事であり大切であった。
がしかし、特別に大事な娘は、あの熱血野球バカと心通わせていた。
ま、そうはいっても別に諦めた訳ではない。今はあちらに向いているが、近いうちに必ずこちらに夢中にさせてみせる。と、心に決めていた。羨ましがっているだけで終わるつもりは毛頭無かった。


とりあえず今のところは…


「フッ…素直に羨ましいといったらどうだ?我慢は身体に良くないぞ」
「あーっ!聞いていやがったな。ふん、コスモレンジャーのリーダーはそんな小さな事にはこだわらねーんだ」
「ほう、いつお前がリーダーになったんだ?やっぱり今時代はブラックの…」
「なにおう、いつだってリーダーはレッドに…」

こいつにこちらの今の立場を思い切り羨ましがらせてやろう。そのほうがからかいがいがあるし。

こういった子供じみた考え方をするところなどが、彼をコスモレンジャーの一員としている素質なのであろう。





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ラーメン屋にて


「フンッ!!」
「くゥッ!!」

バンッッ!!

健闘空しくねじ伏せられる霧島の右腕。
紫暮の顔にはまだだいぶ余裕があった。

「大丈夫?霧島くん」
「うん…やっぱり力じゃ紫暮さんにはかなわないなぁ」
「なに弱音はいてんだ。そんなんじゃさやかちゃんを守れねえぞ」

さやかちゃんに心配してもらえている事へのやっかみからか、京一の言葉は厳しい。
注文がくるまでの暇つぶしの腕相撲は予想以上に盛り上がっていた。
旧校舎での戦闘時からのハイテンションがいまだ続いているのかもしれない。

「しっかし紫暮の一人勝ちかよ、あとやってねえの誰だったっけ」
「ハーッハッハッ、ボクが残ってマ〜ス」

なぜか笑いながら手を挙げるアラン。さやかちゃんがいる為か、やたらにノリが良い。

「水泳部で鍛えたこのパワー、とくと拝むとイイネ!!」
「どっからでも、かかって来いッ!!」

紫暮の方もやけにテンションが高い。これもさやかちゃん効果か?
そんな二人の様子を見ながら、村雨はそっと京一に耳打ちをする。

「なあ、どっちが勝つか賭けねえか?負けた方がここの払いを持つってことで」
「のった!んじゃ俺はアランな」
「ほお…いいのかい?どう見ても空手家の方が有利だぜ?」
「へへへ、こっちには奥の手があんだよ。まあ見てな」
「ヘッ、じゃあ俺もちょっと仕込ませてもらうかね」

言いつつ双方自分が賭けた人物に囁きかける。

「さやかちゃんがな……」
「あそこの嬢ちゃんが……」
「えっ…?」

霧島にはその小さな声は全て聞き取れなかった。だが彼がその名前を聞き間違えるはずがない。今確かさやかちゃんって…。
そしてその囁きをしっかり聞いた紫暮とアランは、

「…ヘイ、カモン…」
「押――――ッ忍ッ!!!!」

明らかに変っていた。

霧島は知らないが、今のアランの目は<盲目の者>と対峙した時とほぼ同様の光を放っており、紫暮の掛け声は九角が鬼と化した時、自分を鼓舞する為に出したのとほぼ同程度の大きさであった。

ここまで二人に気合を入れさせたあの囁きって一体……?

そんな疑問に答える者も無く、がっちりと組まれる二本の腕。周囲に異様な緊迫感が流れる中、審判役の京一が手を添える。

「レディ…ゴゥ!!」
「ヤーーーーーーーーッッ!!!!」
「最後だぁーーーーーーーッッ!!!!」

ベギィィィィン……


……そして……


「…テーブルの方が壊れるとはな…」
「…ソーリーね…」

お詫びとして店に残り掃除をする二人とその手伝いを申し出た気の良い霧島。
他のメンバーはとりあえず他の店で待っているそうだ。
こちらを煽った京一や村雨が行ってしまった事にちょっと不条理を感じつつ、二人の会話は続く。

「ところでアラン、掛け声と共に<力>を感じたがあれは青龍変だな?」
「オウ、それをゆーならソッチは一瞬身体がダブって見えたヨ。二人がかりデショ?」
「……そこまでして勝ちにこだわるなんて、京一先輩達は何を言ったんですか?」

不信げな霧島。彼の脳裏には、一緒に手伝うと言ってくれたさやかちゃんの姿が浮かんでいた。頼んで先に行ってもらったが。

「ハ…ハーッハッハッハッハッ」
「き、気にするな。ハハハハハッ」

どう見ても笑って誤魔化している二人の姿に、<さやかちゃんは僕が守る>という気持ちをさらに強くする霧島であった。





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織部神社にて


どことなく嬉しそうな顔をしてせっせと縫い物をしている雛乃。

「ずいぶん一生懸命だな……それってハチマキか?」
見ている雪乃の声もなんとなく楽しそうだった。縫い物をする雛乃の姿は珍しくないが、その品は明らかに人に贈る物。

「はい…この間旧校舎に降りた際、劉様の額の物が切り落とされたとの事でしたので…以前の御礼もありますし…でも、このような事をしてはかえってご迷惑でしょうか?」
「そんな事はない!劉だったら絶対喜ぶって」

いつになく積極的な妹を雪乃は応援していた。
まったく、雛にこんなに想われるなんて、アイツも果報者だぜ。まあこれで互いの気持ちに気付くだろ…。
そんな事を考えながらふと縫う手元を見てみると…なにか違和感がある。

「なあ…そこに縫いつけられているのって…」
「あ、ひよこさんのアップリケです。劉様がお好きだと以前聞いて……」

その声を聞きながら雪乃は少し想像してみる。
命を遣り取りする場の張り詰めた空気。いつ敵が来るかわからない緊張感。自分の周りには頼りになる仲間達がいて……
その内の一人の額に、全面可愛いひよこ達が巻かれていて……

「…それって一羽だけにしといてくれ、頼むから」
「え?」


真神学園では


周りを引かせる笑みを浮かべてせっせと縫い物をしている裏密。

「ず、ずいぶん一生懸命ね……それってハチマキに見えるけど…?」

見ているアン子の声も少し震えていた。縫い物をする裏密の姿がまず、陸を魚が歩くぐらいに珍しいのだ。しかもどうやらその品は人に贈る物らしい。

「うふふ〜、劉くんに〜この前の符のお礼〜〜。驚くかな〜〜?」
「大丈夫ッ!誰でも絶対に驚くから」

面白い新聞ネタをくれた裏密をアン子は応援していた。
まったく、ミサちゃんに目をつけられるなんてある意味果報者ね。まあこれで京一、龍麻に次ぐ三番目のお気に入りが誕生するわけだ…。
そんな事を考えながらふと縫う手元を見てみると…何か違和感がある。

「…ね、ねえ。そこに縫いつけられているのって……」
「うふふ〜ミサちゃん特製の呪符だよ〜。何かの時に役立つし〜…」

その声を聞きながらアン子は少し想像してみる。
襲いかかる未知の敵。必死に闘う彼女の大切な友達。それを助けようと新たな仲間が集まって……
その内の一人の額に巻かれた呪符から、名前も分からぬような化け物が浮き出て敵を一掃し、その勢いで彼女の友達にも……!!

「…それって一つだけにしておくべきよ、きっと」
「え〜そうかな〜」

劉が二本のハチマキを前にして頭を悩ませるのは、それから数日後の事である。どちらのハチマキにも心が込められていた。





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新宿通りにて


「そうねえ…雷人にはこんなのがいいんじゃない?」
「そ、そうか。じゃあこれにするかな」

他の品を特に選びもせず、そのアクセサリーを包んでもらっている雪乃。
選んだ藤咲はそんな彼女の姿をじっと見守っていた。

「悪いな、買い物付き合わせちまって」
「いいけどね、どうせヒマしてたし…で、またケンカしたんだって?」
「ま、まあな」

雪乃と雨紋のケンカは通算何回目であろうか?
ただ今回は全面的に雪乃が悪かったらしく、素直に頭を下げるつもりらしい。その際何かお詫びの品をと考え、普段から雨紋と親しい藤咲に声をかけたのだが…、

「ま、ケンカするほど仲が良いっていうしね」
「なんだよそれ、別に俺達はそんなんじゃ」
「あら?じゃあ、あたし誘ってみようかな。最近結構カッコイイし」

妖艶な笑みを浮かべる藤咲に対して雪乃の反応は…、

「へん、あ、あんなちゃらちゃらした金髪野郎のどこがいいんだよ。すぐカッコつけたがるし生意気だし自分の事<俺様>なんて言ってんしよ。趣味悪ぃぜ!!」

言動は否定的だが、顔を赤らめて必死に言い募っている姿は言葉より多くの事を語っていた。

「あーははは、冗談だって」
「かっからかうなっ!」

羞恥と怒りで頬を赤く染める雪乃とそれを暖かい目で見つめる藤咲。

実はつい先日、同じような会話を雷人としていた。
その時は<最近可愛くなって狙っている男も増えてきた>という内容だったのだが…

『本当にそっくりだね、この二人は』

返ってきた反応はまったく同じ物だった。

面白いからちょっとひっかきまわしてみようかなぁ……。

こんな事を考える藤咲は、はたして二人にとって天使か、それとも悪魔か…?





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旧校舎前にて


今日の地下探索も無事終了。缶ジュースなど飲みながら、それぞれ一息ついていた。

「ね、龍麻。そのジュースちょっとチョウダイッ!!」
「いいけどこれって無糖のコーヒーだよ。マリィにはちょっと苦いんじゃないかな」
「ソウナノ…?デモちょっとダケ」

言いつつ缶を受け取るマリィ。一口飲んでみて…、

「…ウ〜〜」
「やっぱりね、大丈夫?」
「へ−キだよ。デモ、マリィのジュースの方がオイシイかな。ハイ、お礼に一口ドーゾッ!!」
「ありがとう、じゃ一口だけ…」

この平和な光景を暖かい目で見ている葵と小蒔。

「なんか微笑ましくっていいなあ、ああいうのって。ね、葵」
「そうね…でも間接キスを意識していないのよねえ……」

ケフッ

いきなりの葵の発言に、飲んでたジュースを吹き出しかけ…慌てて飲み込みむせ返ってしまった。

「あらあら、大丈夫?小蒔」
「あ、葵がっ…ケフッ、急に変な事言うからだよ」

小蒔の背中をさすりつつ、葵の笑みは崩れない。

「そうかしら?でも<オヨメサン>になりたいなら、そういう意識もしっかり持たないと駄目なんじゃないかなって。ずっと妹みたいな子と思われるから…」
「へ?<オヨメサン>って?」

目を丸くする小蒔と笑みの深くなる葵。

「うふふ、マリィったら昨日お母さんが<大きくなったら何になりたいの>って聞いたら<ワタシ龍麻のオヨメサンになりたい>って嬉しそうに答えたのよ。お父さんなんて<龍麻って誰だ?マリィのクラスメイトか?>なんて変に焦っちゃうし……」
「そ、そうなんだ……」

小蒔は最後までその話を聞いていなかった。

胸の中にある小さな痛みはなんだろう?

小さくて可愛らしく、笑顔が良く似合うマリィ。
彼女は今までの不幸だった分より、たくさん幸せになるべきだ。
でも……。

『オヨメサン……ひーちゃんの……』

心が、重い。なんで?

素直に自分の想いを語れる。ひーちゃんと仲良く話している。もしかして本当にひーちゃんの<オヨメサン>になっちゃうかも…。

『これって、もしかして嫉妬なのかな?マリィへの』

そう考えて驚いてしまう。マリィに対してそんな気持ちをちょっとでも持ってしまった事と、そんな気持ちを抱いてしまうほど大きくなっていたひーちゃんへの想いに気づいて……。

「小蒔オネーチャンッ!!」
「わぁッ!!!」

マリィがすぐ隣にいた。考え過ぎでいつ隣に来たのか、全然わからなかった。
一瞬心臓が飛び出すかと思った。

「?ドウシタノ?」
「なあんでもないよ、っどどうしたの?」

全然何でもなくない声なのだが、マリィは言葉どおりに受け取ったらしい。

「ソウ。あ、あのね。そのシンセーヒンのジュース、ちょっとだけチョウダイ」
「あ……うん!」

持っていたジュースの缶を渡しながら、ある事を心に決める。

『負けないよ!マリィ』

そう、素直に認めればいい。マリィはひーちゃんが好きで…そして…ボクも!!
それなら心に陰を作らず、前向きに、正々堂々としていられる。うん、その方がボクらしい!

心が軽くなり、自然といつもの見る者が楽しくなるような明るい笑顔が浮かんでくる。

「アッ!…小蒔オネーチャンッ!今スッゴク可愛かったヨ。マリィその笑顔って大好きッ!!」
「そ、そうかな。へへへ、サンキュ!ボクもマリィの笑っている顔、大好きなんだ!!」

お互い顔を合わせて笑いあう、ひーちゃんの<オヨメサン>候補達であった。


「まったく、何煽っているんだか」
「あら、京一くん」

呆れ顔で話しかけてくる京一に答える葵はかわらずに笑顔だった。

「しっかし小蒔もマリィと張り合うことになるとはねえ…ま、精神的に近いもんがあんだろうな」
「京一くんたら…、でもこれで小蒔も自分の気持ちがハッキリしたと思うの」

『最近ひーちゃんへの自分の想いについて悩んでいるって、はたから見てばればれだったからな』

心の中で同意する京一。確かにいい機会だったのかもしれない。

「後はもう三人の問題。できれば三人がきちんと納得できる結果がでればいいんだけど」
「まあこればかりはな。どうなることやら……」

『妹と親友と…ひーちゃん、か。大変なのはこっちかもな』

そう思いながら見つめた葵は、慈母の笑みを浮かべていたのであった。




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