あの頃から
僕達は出会っていた
寄り添いあっていた
まるでそうするのが当然であるかの様に
互いが互いの一部であるかのように
いつも、二人で




序章

解き放つ想い






その遠い日々の想い出を取り戻したのは、
私が前世の記憶を甦らせたのとほとんど同時だった。


私たちの運命が動き出したあの日。
今年の初め、高校3年生という誰が見ても不自然な時期に、突然現れた転校生。
平凡な毎日の中に、唐突に侵入してきた様々な怪異。
不可思議な能力の目覚め。
人知を超えた出来事。
狂い始める日常。
向けられる殺意。
震い上がる心。
信頼すべき仲間達との出会い。
喜び。
恐怖。
悲しみ。
遠き過去からの因縁。
受け継がれてゆく思い。
何も知らないただの高校生でしかなかった私たちは、
その過程で、否応もなく自分の宿命という物に向き合わされた。
人知れずこの街を、東京を、護らなければならないという使命。
その為の戦い。


私が想い出を取り戻したのも、そんな日々の最中だった。
鬼道の力を封じる為に訪れた五色不動。
最後の宝珠を封じた、その瞬間。


帰ってきた、想い出。


九角家の娘だった頃の記憶。




哀しい過去。




突然倒れた私を、彼が支えてくれた。
いつも私たちの中心にいた、重い宿命を背負わされた、彼。
転校生だった彼は、いつしか私の中の一番大切な場所をしめるようになっていた。
それは恋だったのだろうか?
解らない。
でも、きっと。
心とは違う、もっと深い部分、
そう、魂が惹かれていたとでもいうべきだったろうか。
彼を、いつも知っていたような。
彼を、いつも見ていたような。
彼の側に、いつもいたような――


でも、彼は――






取り戻した記憶は、それだけではなかった。
フラッシュバック。
幻想のように、泡沫の夢のように。
遠い過去の、全ての私が甦っていたのだ。
全ての彼等が、心に焼き付いてきたのだ。
黄龍の器と、菩薩眼を持つ者の、宿命というべき出会いと別れ。
龍脈に引き寄せられた、宿星で結ばれた仲間達。


あるときはマケドニアの獅子王として。
あるときはユーラシア大陸の覇者として。
あるときはサマルカンドに現れた帝王として。
あるときはワーテルローに消えた野心溢れる皇帝として。
時代の覇者とでも言うべき数多の器達の、目覚めと死。


私は取り戻した。
想い出を。






彼は、いつもそこにいた。
彼女は、いつもそばで微笑んでいた。
彼らは、どんな時も支え、支えられて――
彼は彼の傍らに、影のように控え――
私は――






そして






あの時も――
彼はいた。
彼女はいた。
まるでそうするのが当然であるかの様に
寄り添い、微笑みあいながら――







私の心は――
遠き想い出の地へと――
さかのぼっていった――























第一章

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