G−Experiments 0079−01



 宇宙世紀0079。地球より最も離れたコロニー群『サイド3』はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に対して独立戦争を挑んだ。その無謀とも思える行為に、近年見られたスペースノイド達の独立気運を沈静化させるための見せしめの意味もあったのだろう、連邦政府は宇宙艦隊を派遣、事態を一気に終結させる構えを見せた。

 しかし。

「おいおい、この機械人形、ホントに動くのかねェ」
「シュミレーターよりは機敏で、そして過酷に応えてくれる・・・だと」
「モビルスーツ、だ」

 ノーマルスーツを着込んだ男たちの愚痴に割り込んだのは、いかにもメカニック然とした壮年の男性。

「ミノフスキー粒子下における近接戦の常識を覆す、ジオニック社の新作だとよ」

 ジオニック。それは月の都市・グラナダを拠点とする宇宙開発機器を主な商品とする社名、だった。今では開発機器ではなく、兵器開発を主とする・・・。
 なお、このジオニック社が後のアナハイム・エレクトロニクスになるのだが・・・それは未来の話。

「このMS−05及びMS−06タイプのモビルスーツ・・・手に入れるのにどれだけの労力を要したか・・・」
「ライバル社の製品ですからね、コイツは」

 軽口を叩いていた男の片割れ、やや堅い容姿の持ち主・ルロイ=ギリアムがその巨大な機械人形『モビルスーツ』の装甲を軽く叩いてみた。金属であるからには当然硬質なのだが、金属というカテゴリーで考えると柔軟性に富んだモノだと聞く。

「ひゃひゃひゃ、スパイって職業も大変なこったなァ」
 スキンヘッドの男・ドク=ダームの言う通り、このMSは正規のルートで手に入った代物ではない。設計図面は勿論のこと、実物までも鹵獲或いは強奪する・・・そのための代償はそら恐ろしいものがある。

「考えねェ方が精神的にはいいだろうよ」
「そうだな、お前達はコイツのことだけ心配してればいい」

 メカニック・ダイス=ロックリーはそれだけ言い残してデッキの奥に消えていった。一応パイロット達の様子を伺いに来たらしい。激励などとは無縁なお言葉だったが・・・。

「・・・で、ルロイちゃんよ」
「何か?」
「ルナちゃんはドコいったよ?」
「・・・さあ?」



 彼女はひとり、廊下の窓より虚空を眺めていた。
 ルナ=シーン。この宇宙巡洋艦ムサイ級(これもまたジオニック社の製品)『ダガー』に搭載されたMSパイロット三名のひとり、そして――。

「ここにおいででしたか、少尉」
「少尉はやめてくれませんか、ダイス主任」
「ハッハッハ、階級は便宜上のモノですからな、それでも戦場では立場をわかり易くするためには便利ですぞ」

 彼女は彼を『主任』と呼んだ。本来整備兵だろうと軍隊なら階級がある。主任、それはまるで――。

「ではルナ=シーン試験官、既にMSの整備は完了しておりますが」
「そうですか。わかりました、ありがとう主任」

 廊下をエレベータに向かって歩き出した彼女。

「ひとつ聞いてもいいですか、主任?」
「どうぞ」
「この紛争でわたし達のしようとしていることは・・・何なのです?」

 抽象的である、しかし事情を知る者には良くわかる質問だった。そう、とても良くわかる・・・。

「――――ですな」

 彼も意味が充分わかった上で、その答えを寄越した。事実そのままの答えを。





 25分後、無数のコンソールに囲まれたルナは同僚達(そう、同僚である)に指示を出す。

「私達はこれよりルウムの空域にフォーメーションAで展開する」

 彼女のモビルスーツ、MS−06F【指揮官機】は彼女の髪に合わせたダークブルーに塗装されている。

「ルナちゃん」
「ダーム試験官、何か?」
「何でオレだけ05型なんだ?」

 彼女の右後に位置する機体、MS−05(後の旧ザク)、それが彼の乗機。そのフォルムは他の二機比べて脆弱に見える。

「・・・会社に聞いてください。私が割り当てたわけじゃありません」
「チキショー! 危険手当を請求するぜ!!」

 文句を喚きながら、それでも機体の頭部を黄色に塗っているのはいかにも彼らしく、ルナも失笑をこらえる。

「今回の相手は連邦の方だったな?」

 ブラウンのMS−06F、彼女の左後にあるルロイのザクUF。

「ええ、既存兵器に対してのレスを見るのが今回のExなので」

 それに、と言葉を切る。

「アースノイドが相手なら、少しは気が楽でしょ?」



「ルナ=シーン、出ます」
「ドク=ダーム、出る」
「ルロイ=ギリアム、出撃」

 カタパルトから次々射出されるMS。三すじの機影を見送るダイスは己の仕事に満足を覚える。

「艦長、後は合流ポイントまでミノフスキー粒子を散布しつつ移動を」
「味方MSの動きをトレースしておけよ」
「了解!」



「たった三機の機械人形で上はナニを期待してんのかねェ」

 近距離ではまだ『お肌の触れ合い会話』をするには及ばないようだ、無線の通信が繋がっている。

「シュミレーター戦果予想では、連邦の戦艦一隻相当の戦力をMS一機で撃破可能らしい」
「バズーカを活用できれば、一機で戦艦3隻は沈められるって話だけど」

 携帯している火器のひとつ、その名は男二人の心を冷たくさせた。何しろその武器は――。

「核弾頭かよ・・・ジオニックもすげェコトを考えやがるぜ」

 そう、この人型機動兵器ザクが使うことを想定されて装備している最大最凶の武器は戦術核なのだ。勿論威力としては大したレベルではない。それでも宇宙戦艦一隻を完全破壊ためとはいえ、あまりにも凶悪すぎる発想――いや、配備されている時点で発想ではない――装備である。

「元々放射線で充満している宇宙空間での使用・・・合理的なんだよ、科学者って連中は」
「アースノイドにとって核は名前だけで震えあがる。それを戦場で花開かせる効果は絶大でしょうね」

 戦果と武威の両方を見せつける・・・それがこの戦いの意義。

「それじゃ、せいぜい宇宙の同朋達を助けてやろうじゃないかショクン!」

 前方には幾つもの火花が咲いている、既にジオン軍と連邦軍は刃を交えているのだ。

「合流ポイント156C、各自距離4000以内において判断・戦闘せよ」
「「了解」」

 三機のイレギュラー達は戦場の右翼より現れた。





 ――イレギュラーズ。
 後の歴史に語られる、連邦軍に牙を剥き続けた私兵に恐怖を以て与えられた彼らの呼称――。





 連邦軍の主力戦闘機トリアーエズFF4。その機体が次々と撃墜される様を、連邦軍戦艦サラミスのキャプテンは艦首より呆然として見入っていた。悪夢にも似たその炎群を。
 宇宙を駆けるのは人間だった。いや、人間のような何かだ。無重力下の空間を信じられない挙動で飛び跳ね、直進が主な戦闘機達を瞬く間に手にした火器で撃ち落としてゆく。稀に命中する戦闘機の弾丸に動じることもなく戦い続ける彼らは神話の巨人を思わせる強さで我々を薙ぎ払う。

「う、撃て、撃て撃て!!」

 指揮能力も勇敢さももはやこの戦場では通用しなかった。彼は怯えた視線で向けられた大筒を見つめ――。


 大輪の花が咲いた。


「ゴキゲンなマシンじゃねェか、ひゃひゃひゃ!」

 戦艦撃墜一、艦載機多数。ドクの操るMS−05はその性能を十二分に発揮していた。損傷チェックではダメージ軽微以下――。

「核はまだニ発残ってんだ、もう一隻行くぜ!」

 彼は再び獲物を目指し、周囲を索敵し始めた。





(問題は側面からの砲撃だろう)

 ルロイはその判断を心して、敵戦艦に対して垂直に進む。戦闘機に構う時間をかけず、その母船たるサラミスを狙う。

(ロックオン・・・)

 彼のザクUFはそのまま戦艦下を通り過ぎる。それとどちらが早いだろうか、みるみる広がる爆光、そして彼のザクUFを追撃していたトリアーエズをも巻き込み、連邦軍はその空域にいなくなる。

(ふぅ・・・)

 彼もまた、予想以上の機動性を持つMSに驚きの音を漏らした。機体が十数倍軽い筈の戦闘機に負けない機動性や推進力、そしてその砲弾をもろともしない装甲・・・丸みを帯びたそれは直撃弾以外のモノは容易に貫通を許さないだろう。

(ジオニックの技術者も、さぞ鼻が高いだろうな)

 微量の弾薬を消費しただけでは、上の人間は満足しないだろう。移動空域を確認しながら、彼もまた戦場を駆ける。





 サラミスの主砲が回頭する、こちらの動きに気付いたのだろう。しかし

「遅い」

 高熱を発する鉄の斧が振り下ろされる。眩い光を撒き散らしながら、それは同じく鉄の大筒を裂いた。背後より高速接近する機影を警報で受けながら離脱、そして

「さよなら」

 別れ際、120ミリのマシンガンが連続二射、左右のエンジンに放たれる。臨界を維持することの叶わないエンジンは暴走をはじめる、そして――。


 轟ッ!


 退避する間もなく、またひとつ。

「戦艦四隻撃破・・・」

 既にバズーカを使いきっている、あとマシンガンの残数は連続で八射程度、マガジンはなし。

「帰投が妥当ね・・・ポイント156Cに撤退」

 夥しい死を背にして、ルナのMSは戦場を後にした。行く手を遮る多くの生を死に変化させつつ・・・。





*任務完了*


「よく戻ったな三人とも」

 無事に帰った彼らパイロット達をクルーは盛大に歓迎した。それと下に見つつ、TVに映る彼の姿を年長者達は眺めていた。


 ギレン=ザビ。


 この戦いを始め、そしてジオンを勝利させた男。

「ルウムでも大勝した・・・これでジオンは極めて有利な条約を結ぶことができろだろう」
「核の封印を条件に、といったところでしょうな」

 グラスを傾ける艦長はダイスの補足に頷く。彼らスペースノイドとしてはザビ家の専横の部分はともかく、ジオンの主張する地球連邦政府の『地球偏重政策』について批判する態度は支持しているのだ。

「戦いが終わって、そして地球も宇宙も軍事力を高めていく・・・いずれ資源に勝る連邦が勢力を増すだろうが、自分達から申し出た休戦協定を破るような破廉恥な真似をするかな?」
「するでしょうな」

 一考の余地も無い、そういった感じで応えるダイス。

「でなければ、スペースノイドを弾圧し続けるような破廉恥なマネはしなかったでしょう」

 それでもこの勝利が戦争終結を意味するならよいではないか。あんな、二十歳にもならぬ連中を戦場に送り出す必要もなく、地道に機体のデータを取る作業に戻れるのだから。


 しかし、歴史は思いも寄らぬ方向に向かう・・・。





 半舷休息に入ったダガーの中、ルナは先日の戦闘結果を検討しているメカニックの元を訪れた。

「シーン試験官はよくこんな機動をザクで動かせますね」

 彼女の取った回避運動・・・それはあまりにランダムで、彼女がマニュアルで操作したことが伺える。

「7Gや8Gでは済まないはずなんですが」
「慣れれば誰にでもできるはずだけど?」
「ムチャですよ、毛細血管が普通持ちません。視神経がレッドアウトしたり、ヘタするとブラックアウトしますよ」

 でも、とその技術者は笑顔でルナを称える。

「凄いデータです。これを生かせばもっと機能の高いMSを開発できます」
「そのための戦いだったからね」

 それがこの独立戦争を、ジオンに組せず闘う理由。


「実験、ですな」


 ディアナス社――月の都市・フォンブラウンに本社を置く複合企業の軍需部門・ダイス管理官は試験官ルナ=シーンにそう応えた。

(スペースノイドの自由に貢献できたというのなら、少しは罪深さも薄れるというもの)

 彼女もまた、ルウムの圧勝でジオンの勝利を判断したのだった。


 それをたった一人のアースノイドが覆えすのには、もう少し時間を要する。
 そう、南極条約締結予定日のあの時間まで。




あとがきというか一言二言


「実験実験♪」
「Gゼロ既存オリジナルキャラ、ルナ=シーンです」
「ワタクシです。GゼロSS序章、取り敢えず書いてみました」
「勢いで行動して・・・責任とれるのですか?」
「(無視)イレギュラーズの存在に少々歴史を変更させつつも、宇宙世紀を楽しんでいこうかな、と」


「MSと戦闘シーンが地味ですよね」
「現段階では連邦にMSないから。次にはお前のザクUFが高機動型ザクになるよ」
「ルロイやドクのMSは?」
「ヒミツだ」
「・・・」
「次は9ヶ月後、サイド7での出来事の後か」
「・・・そんな時点で高機動型ザクがあっていいの?」
「いいんだ、連邦なんて大嫌いだし・・・お前、アムロ撃破してみるか?」
「! それは少し・・・」
「大局的には左程問題ないぞ? どうせ物量に勝る連邦がいずれ勝つだろうし――何年後かはわからんが」
「それはそうかもね」
「しかし・・・開発で考えるとガルマ出てくる時点でお前のMS、ゲルググになってるかもしれん(笑)」
「(苦笑)」
「ルロイはドム系、ドクには――アレか」
「?」





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