彼女のとある一日




 その男の風体は、とてもシーフギルドと釣り合いの合わぬものであった。寸分の乱れも無い髪型、立派なスーツを無理なく着こなした姿は、どこからどう見ても『紳士』。そして、その服装に負けぬ甘いマスク。これで品格が備わっていれば『貴族の子弟』という言い分も通るだろう。
 しかし。
「ふぅん、リファールはご無沙汰してたからな、随分顔ぶれも変わってるじゃねぇか」
 くだけた物言いで、彼は正面の知人に語り掛けた。少なくとも教養高き世界に生きる者のそれではあるまい。
「まあな、リュキアン王女様が実質的な王様になって以来、自国他国での騒動も多くなってよ。ウチのギルドだってトップ連中の入れ替えが色々あったしな」
「ふふん?」
 テンチルドレンの結束は、テンチルドレンに属する国同士の関係までを保証したものではない。国の上に立つ者が未熟であれば、そこにつけいる隙を見出そうとする。自国に利潤を・・・それが政治という活動であろう。
 噂ではテンチルドレンの外からも火種が舞込んできているとも聞くが、そんなことはギルドの末席にある小男にも、この根無し草な色男にも関心はなかった。
「・・・で、俺に好都合な人事とかはあったのか?」
 小男に酒を勧めながら、さりげなく情報を催促する。ギルドの一角での飲酒・・・普通なら目立ちそうな状況だが、ここでは情報屋とのありふれた光景となる。
「んー、そうだなあ・・・」
 グラスを一気に傾け、良い気分に浸りながら、彼の口は軽くなっていく。
「最高幹部のひとりに、リストンって女がいる。なかなかの美人でな、気さくだから人望も厚い。」
 が、と彼は唇を舐めてから続けた。
「気の強い、凛然とした女だ。下手なことをして彼女に睨まれたら、おそらくここで『商売』は出来ねぇだろうな」
「扱い辛そうな女みてぇだな」
「ああ、噂じゃ余所者に惚れてるらしい」
 暫し沈黙がたゆたう。小男は飲酒に、男は思索に集中していた。
「女でたいした実力者ってのは、後はいない・・・いや、ちょっと待てよ」
 どうやら彼は何かを思い出したらしい。
「最高、ってわけじゃねぇが、幹部にひとりいたな。リストンに比べれば権限も微々たるモンだが、シーフの腕前そのものはリストンよりも上、って女だ」
「ほほう」
 男の声に興味の色合いが増す。
「人当たりの良い性格でな、リストンとは違う意味合いで人望もあるって話だ。俺は合ったことはないんだがよ」
 腰を落ち着けてギルドに貢献すれば、おそらく最高幹部の仲間入りなんじゃねぇかな、と小男は自身の感想で締めくくった。
 男も肯く。将来性のある、人の良い女。これ以上ない条件だった。
「で、その女の名は?」
「ああ、確か・・・」


 街を行く彼女の足取りは軽やかだった。一見ただの陽気な娘だが、わかる者にはわかるであろう・・・彼女の身のこなしが実に無駄が無く、足音さえも殺している見事なものであることに。それは決して「只の娘」に可能な体捌きではなかった。
「〜♪」
 イルゼ・マリスンはご機嫌だった。連日続いていたデスクワークから解放されたからだ。今までは依頼が無い場合でも、日ノ出屋の接客業を理由になんとか面倒事から逃げていた。だがギルドもそれを口実と承知したのか、日ノ出屋の店主に
「どうしてもイルゼの姉御をウェイトレスとして必要なのでしょうか?」
 と直接交渉に当たらせるという行動に出た。未来ある若者達(ようするにギルドの下っ端)の涙ぐんでまでの説得交渉に店主も首を横には振れず、結果としてイルゼはギルド側の計略にまんまと嵌まったわけである。
 そこには
「イルゼをとっ捕まえるまで戻ってくるんじゃないよ!」
 という苛烈な命令や、
「まあ演技の練習にバイトを始めた娘もいるからいいや」
 という妥協があったりした。
 ともかく、ギルドに連行されたイルゼはリファールのシーフギルド幹部としての義務を果たすべく(本人の意思は無視されて)、連日泊まり込みで作業に没頭して(させられて)いたのだった。勿論そこにはリストンの
「最高幹部候補のイルゼに幹部としての見識を深めて欲しい」
 という配慮があったのだが、イルゼが気付くはずもなかった。
「店長、もっとあたしを必要だと思ってくれてると思ったのニー」
 事情を過去まで溯ったためか、イルゼの機嫌がやや斜めになってきている。
「そりゃあたしはエリアみたくカッコよくないし、レダみたくスタイルよくないケドー」
 不満の対象が店主から同僚に移りつつある。一瞬で機嫌がコロコロ推移する、どうやらお天気屋のようだ。
(・・・イルゼは必要以上に痩せ過ぎだから)
 そう言われたことも一度や二度ではないが、今以上に顔が丸くなるのは困る、とその意見を固辞しているイルゼであった。乙女心とは複雑な代物なのだ。


「あの、そこのお嬢さん」
 イルゼの回想・妄想・恨み辛み等の世界は突然降って湧いた呼び掛けによって壊された。それも、普段の彼女には全く馴染みのない呼ばれ方によって。
「え・・・あたし?」
 置き去りにされた子供のような挙動で暫く辺りを見回し、はじめて自分が迷子であることに気付いた童女のような仕草でイルゼは自分を「お嬢さん」と呼んだ彼を見つめ返した。
 彼はCzよりも少し背が低く、代わりにCzよりもがっしりとしていた。整った顔立ちに高価そうな服――お金持ちかもしれない。
「はい、貴女のことです、お嬢さん」
 にこやかな微笑みを美声に乗せ、彼はイルゼに肯き返した。
「初対面の人間が、このような頼み事をするのもおこがましいのですが、どうか聞き入れて貰えないでしょうか?」
「ほへ?」
 呆気に取られたからか、間抜けな表情で返事するイルゼ。
「どうか私の、モデルになっていただきたい」
「・・・ほへ?」
 間抜け度が上昇した。

 彼曰く、もうすぐ妹の誕生日であり、彼女に似合うドレスをいくつか買ってあげたいという。しかしどのような服が似合うか途方に暮れていたところ、偶然妹に良く似た容姿の彼女に出会った・・・ということだった。
「本当にすみません、こんなことを御頼みしてしまって・・・」
 恐縮する彼に対し、イルゼは気楽に引き受けてみせた。

 何故って?
 それがイルゼだから。
 たとえそこに「いろんなドレスが着れそうだしー」という邪な思想がブレンドされていたとしても。

「あの、そういえば、まだお名前をお伺いしておりませんでしたね」
「あたしはイルゼ・マリスン。えーと・・・」
「あ、失礼しました。私は・・・」



「・・・ロイヤル・ガードナー?」
「ああ、間違いない。あれは奴だったね」

 どうやらすれ違ったらしい、とレダはシーフギルドのあちこちを回った挙句に自分の行いが無駄足であったことを悟っていた。この所ギルドに詰めっぱなしのイルゼに、せめて故郷の味を提供してあげようと日ノ出屋から持ってきた筍御飯と鮭の酒蒸し、栗きんとんはイルゼの胃袋には納まらない運命のようだ。
 仕方なくギルドを辞そうとした矢先。
「・・・?」
 そこにおかしなもの、この場にそぐわないものを見出し、疑問符が生じた。・・・いや、確かに『普段着に風呂敷包み』というわたしもあまりギルドの一員には見られないだろうけれど、件の彼はそれ以上に『浮いて』見えた。
 それで発した質問が、先の会話冒頭である。
「・・・有名人なの?」
「お前さんはまだ知らなかったか」
 レダはギルドに所属してから日が短かった。実力からすれば幹部の末席に加わることも決して無理ではないが、閲歴が浅いことから取りたてられてはいなかった。当然ギルドに飛び交う情報も、自身が望まぬ限り『耳』に入ることは少ない。
「奴はテンチルドレンを行き来する情報屋さ」
 商業工業はおろか、軍行動に関する情報までを扱う『やり手』だという。
「・・・軍事情報まで・・・?」
「ああ。最近リファールも色々あるからな、それでおいしい話でもないかって探しに来たんじゃないか?」
 レダの呟きに頓着せず、彼は知る限りの情報を一気にまくし立てた。
(・・・情報屋、ロイヤル・ガードナー、か・・・)
 目の前の彼が自慢げに語り続けるのを適当に流しながら、レダは思考の海にいた。

 近頃リファールで色々な事件が起こる、と彼は言った。それらが『とある男』の指した、駒の演出した盤上での出来事であることを知る者は少ない。そして彼女達はそれを『知って』いた。
 軍事情勢をも商売とする、情報屋の入国。これは単なる偶然か、それとも彼も『駒』なのか・・・レダには判断がつかなかった。彼女は自身に出来る手を打つことにする。
 即ち、盤を挟み、『あの男』と相対する人物に意見を仰ぐ、という手を。


「うん、イルゼさん、よくお似合いですよ」
「そうカナー?」
 ストレートな賞賛の響きに照れた笑みを返すイルゼ。もはやモデルがどうのではなく、本人が大変楽しんでいるように見える。得てして女性は高価な服飾に弱い、そりゃもー弱い。
「モデルが美しいと色々目移りして困る、というのは中々贅沢な悩みですかね?」
 などという褒め言葉も随時入れておく。少なくとも「綺麗」と言われて怒る女性も、これまたいないだろう。
 あれこれと着せ替えを楽しみながら数着のドレスを購入する。そして、
「イルゼさん、これを受けとってもらえませんか?」
 とそのうちの一着をプレゼントとする。
「えええええええー!?」
「お気に召されませんでしたか?」
「ででででも、これは妹さんへのプレゼントじゃなかったんですカー!?」
 突然の申し出に慌てるイルゼに、ガードナーはあくまで柔らかに微笑みかける。それが警戒心を取り除かせるポイント。
「見ず知らずの私、そして妹のために尽力くださったイルゼさんに、せめてもの御礼をしたいのです、是非・・・」
 無理強いしてはいけない、ここでは「受けとってあげた方が良い」と思わせるのが重要。現に、
「ありがとうございますう♪」
 嬉しそうに、本当に嬉しそうに彼女はささやかなプレゼントを受け取ってくれた。

 ここまでは計算通りである――が、しかし。
(・・・?)
 何かがおかしかった。そう、何か普段と異なる違和感が彼を捉えていた。


 ちょうど良いのか悪いのか、日ノ出屋に居合わせたのはシーズィのみだった。
「情報屋・・・?」
「・・・ええ、杞憂かもしれないけれど、タイミングがね・・・」
「ふむ・・・」
 読んでいた本を閉じ、黙り込む。もし『指し手』の関わる、彼の放った『駒』であるならば、シーズィは間違い無くそれに立ち向かおうとするだろう。
 やがて決断する・・・己に勢いをつけるためであるかのように、力強く立ちあがる。
「不確かな情報は、確認しておいて損はないだろうな」
 その行動を援護するかのように、
「・・・ガードナーの足取りは、凡その所を掴んでいるわ。後は、実際に追跡してみないといけないけれど」
「成る程、なら急ぐぞ」



 言葉巧み、という大袈裟な言いまわしは必要なかっただろう。素直な彼女を操り、こうして食事に誘う。ガードナーにとって、それは容易い、いや、容易過ぎたのだった。
「いただきマース♪」
 喜びに顔を輝かせる彼女に作った笑顔を返しながら、彼は決して表に出せないような事柄を心に描いていた。
(素直過ぎる・・・もしや、俺が騙されているのか・・・?)
 お人好しの女だとは聞いた、しかしシーフとして『リファールの猫』と称されるまでの腕を持つのだ。まさか、ギルドのメンバーを全て騙し果せている程の演技巧者なのだろうか・・・。
「あ、このアワビ美味しい・・・幸せ♪」
「・・・ふぅ」
 彼女の満ち足りた表情を観察し、ついつい押し殺せないため息が漏れ出した。

 それは呆れの嘆息である・・・自分自身への。

 ガードナーは組織の後ろ盾も何もない、只の情報屋である。しかしその情報網として、各国でそれなりの地位にいる女性を『利用』していたのだ。その方法は――言うまでもないだろう。
 イルゼも当然そうのような『目的』のために目をつけたのだ。つけたのだが・・・。
「・・・ふぅ」
 この女性を見、ふと自分を顧みる。
 彼女は、他者の心を映す鏡のようだ。

 裏世界で生き抜くために、彼は色々なことに手を染めていた。女性を『道具』のように扱うのもそのひとつ。だからこそ、今までに彼がしてみせた『らしい行動』、それらに対して一遍通りの反応というものにガードナーは慣れ切っており、それを用いて『騙す』という行為に何ら呵責を感じなくなっていたのだ。
 しかし。
(ここまで純粋な心を見せられると、な)
 そう、彼は『したたかな女性』を騙すことに罪の意識は皆無である。しかし、『純朴な子供』に対しての事情は異なったのだ。

 素直に喜び、素直に礼を言い、そして素直に笑みを表す。自分に何と縁遠いことか。
 そして、そして何と眩しい行為か。

 それが、彼の感じた違和感の正体。無垢なる者への躊躇と――憧憬。
 彼はいつのまにか、イルゼを『道具』にしようという気持ちはなくなっていた。そうしてはいけない――そんな気分になってしまったのだ。そして、それは不快ではなかった。

「あれええええ目の前が回ってあははははははー」
 突然の素っ頓狂な声に現実へと復帰したガードナーは、顔を真っ赤にしてけたたましく笑っているイルゼに気付いた。そして、テーブルに転がる瓶。
「・・・しまった・・・」
 彼女を『口説く』ために準備していたアイテムのひとつである、口当たり良くアルコール度数の高い酒が空になっていた。どうやらジュース気分で次々と飲んでしまったらしい。
「アレーがーどなーさんイモウトさんじゃなくてオトウトさんがイッパイー」
 どのような光景がイルゼに見えているのか、とてもわかり易い状況。既にガードナーの分身が幾重にも映っているらしい。
「い、イルゼさん、しっかり」
「んー? 酔ってない酔ってナイ・・・すぴよすぴよ・・・」
 自らの言葉を一瞬で否定するかの如く、イルゼは酔い潰れてしまった。それを見守るガードナーがもらした溜息、今回のは優しい色のものだった。


「んむー・・・すぴよすぴよ・・・んんー」
 完全に前後不覚な状態のイルゼを肩に担ぎ、ガードナーはとにかく彼女の酔いを覚まさせようと思った。何処かで休ませるのが得策か――常日頃とは異なる判断の元、彼はイルゼを一夜宿に運び込もうと思い、
「ロイヤル・ガードナー・・・」
 その時、彼は地獄の釜が開くかのような音を声として聞いた。
 何故だかわからない、しかし脳裏にて警鐘が鳴り響いた。

(危険! 危険!)

 彼がその根拠無き勘働きを強引に振り払いながら、背中ごしに振り返る。
 そこには、身長の高いエルフと、頭ひとつ程度背の低い女のハーフエルフが自分を見つめて・・・いや、エルフは明らかに睨みつけていた。
「・・・・・・・・・どなたですか?」
 彼はその二人を本当に知らないので、そのまま普通に対応した。
「貴様・・・イルゼに何をしている・・・」
 言霊に力があるとすれば、きっと自分を引き裂いただろう・・・そんな気分が何故かガードナーの心に過ぎる。
「ああ、イルゼさんの御知り合いの方ですか」
「だったらどうした」
 取りつく島も無い様子に、彼は早々と簡潔に説明した。そのことをガードナーは後悔することになる。何故、もっと順序立てて事情の説明を行わなかったのだろうか、と。
「見ての通り、イルゼさんが酔ってしまわれたので、宿で休ませ――」

 轟ッ!!

 何処かで風が吹いた――唸った。
「・・・イニエアよ、イルゼを絡み取れ」
 同時に女が何かを呟き、その衣服から無数の蔓が伸びる、そしてイルゼに巻きついて、ガードナーから彼女を引き取った。
 呆気に取られるガードナー、それを尻目に。
「レダ・・・あの男への『尋問』は、私に任せてもらいたい」
「・・・お手柔らかに、ね」
 男の声色に、女は肩を竦めて了承した。そして自分に向けられる、剣呑な光を放つ目。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、お、俺は本当に彼女を介抱しようと――」
 自分で言っていても胡散臭い発言だとは思う、しかし、しかし今回は本当なんだ・・・!
「ここでは何だ、あちらの路地でゆっくりと話し合おうじゃないか、なあガードナー君」
 友好とは限りなく疎遠そうな口調、そして細身とは思えないような力で引き絞られる袖口。それらの威に圧され、何の言い分も口に出来ぬまま、ガードナーは光差さぬ路地裏へと引き込まれていった・・・。

「・・・完全に酔っ払ってるだけね・・・」
 イルゼの様子に異常がないことを確認し、安堵を漏らす。その上で、しかるべき言葉を紡ぐ。精霊に語りかけるための、言葉。
「・・・知られざる生命の精霊よ 我が導き我が声に応じ 常なる正しき力を・・・」
 レストア・ヘルス。本来は毒や病気を癒す精霊活性の魔法であるが、酔いにも充分役立つ。
「うう・・・ひっく・・・ってアレー!?」
 効果は覿面のようで、いきなりガバスと跳ね起きるイルゼ。
「ここはドコってレダー!?」
「・・・おはよう、イルゼ」
「おはよーってどうしてあたし道で寝てるノ? あっ、ガードナーさんは!?」
 しばらくボンヤリしていた頭が動き出したようだ。自分が置かれていた状況を朧気ながらに思い出したらしい。
「・・・ああ、あの人ならシーズィが『丁重』に送って行ったわよ」
「ふーん」
 言葉の真なる意味を知る由もなく、イルゼは納得したらしい。
「・・・取り敢えず日ノ出屋に戻りましょう。シーズィもすぐに戻って来るだろうし」
「うん、あたしお茶漬け食べたいシー」
「・・・はいはい」
 事実の裏面で何が生じていて、誰がどのようなことを考えて行動し、それにどう対処したか。たったひとりだけ、全く何も知らずに幸せそうな彼女がニャハハと笑った。



 彼女を中心とした、あの一件。
「結局あの男は、単なる情報屋に過ぎなかった」
 筆舌に尽くし難い尋問の結果がそれである。ロイヤル・ガードナー、彼の入国のタイミングと行為、それらは彼にとって最悪のものだったのだろう。ついていないことこの上ない。
「・・・どうにも神経質になり過ぎたってことだったのね。反省しないと」
「いや、まあ・・・なんでもない」
 実に複雑な表情のシーズィ。確かに『指し手の駒』ではなかった、しかしガードナーは彼にとって余計な存在だったのは間違いなかったのだから・・・中々にして面白い引き合わせだったといえる。
「・・・それにしても」
「ん?」
「・・・いいえ、なんでもないわ」
 ふと思ったのだ、彼、ロイヤル・ガードナーは、いったいどんな『尋問』を受けたのかな、と。
 そして今、彼はどこでどうしているのだろうか、と。


 同じ頃。
 そのロイヤル・ガードナーは旅装でリファールを出国していた。
「・・・もう女を道具にするのは、止めよう・・・」
 自戒と恐怖、その極端な理由から、彼は今までの行いを繰り返さないよう心に決めたのだ。取り敢えず全てをやり直すために彼はテンチルドレンから去ることにした。

 数年後、今までと違い真っ当な方法で情報をネットワークとして管理・収拾するという方法を確立し、ラムリアースで地歩を気付いた彼が、近隣諸国との緊迫した関係に揺れる中、その優れた情報網を買われて城に赴き、自分の能力を認めた新任の作戦参謀と再会することになるのだが、それはまた別の話。


「・・・というような事があったのよ」
 笑い話として良く出来ている今回の一件。それは気分転換にも充分使える代物だった。
「ほう、それはまたシーズィにとっては気が気ではなかったろうな」
 筆を休めて、ボズもおかしそうにそう評した。
「・・・まあいかにもイルゼらしい展開ではあったんだけど」
「知らぬは本人ばかりなり、か」
「・・・そういうことね」
 その事件の中心人物が何も知らないまま、事態が収拾してしまう。全体的にコミカルで、オチもついている。
「吟遊詩人が詠うには無理があるな・・・だが」
「・・・だが?」
「童話には丁度いいかもしれん」
 ふふっ、ついつい笑いが漏れ出した。
「・・・なるほど、それは面白いかもね。童話としてまとめてみる?」
「挿絵なら、描いてもいいぞ」
「・・・その時はお願いするわね」


 リファールに、『お天気姫と風くんたち』という童話がある。
 人の好いお天気姫が、自分では気付かないまま騒動の種となり、それを姫の従者である風くん、雪ん子ちゃん、雷ちゃん、入道雲くん、寒空ちゃん、にわか雨くん、夕焼けくんといった面々が姫様に成り代わってそれを解決するという童話である。
 出典については諸説があるが、一番有力なのは童話作成当時、リファールの王女であったリュキアン姫の人柄を慕った民人の誰かが創作したものである、という説だ。
 しかし、疑問も残る。そうであれば姫の従者はおそらくリュキアン王女の信任厚い騎士・ジェライラを模した人物がいるはずなのに『お天気〜』には該当する従者はいないのだ。それに当時に描かれた童話の挿絵、それを描いた人物は、当時の西部域を代表する気鋭の作家なのも、説に信を置けない理由のひとつになっていた。
 かくして真相や如何に。

 御粗末。







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