よく晴れた日の午後、彼らはやってきた。 ある者は、黒い長い蓬髪を頭頂に結い上げ、ある者は豪奢な金の巻き毛を 鋼の鎧に映えさえ… それぞれの姿は、異様。 道行く者は皆、逃げるように、すれ違うことのないように手近な建物の中に 逃げ込むように飛び込む。 「チィ、どこだよ、ここは…異国か?」 先頭に立っていた男が、舌打ちしながら傍らの金髪の男に尋ねる。 「NO,ミーの国もこんなではないデス。」 「我がフランスも、あんな無粋な乗り物は走っておらんぞ。」 「姉様ぁ、あたしもう歩き疲れたよう!」 「リム、もうちょっと我慢なさい。」 女三人の声が交錯する。 「この店にとりあえず入ってみませんか?」 後方を歩いていた少年が、指した先は、何やら派手な音が漏れい出てくる 建物。 「にぎやかな場所なら、僕たちもそんなに目立たないでしょうし…」 「やったぁ!さすが閑丸君☆」 短い髪の、先ほど泣き声をあげていた少女が、その手を取って走り出す。 「わ、わちょっと、リムルルさん!?」 引きずられるように走っていく閑丸の背を見送りながら、一同は顔を 見合わせた。 「ふむ。何も手がかりはないし、閑丸の提案も悪くないのではないかな?」 眼帯をつけた、壮年の男も後に続く。 「楽しそうですね。ナコルル、行こうじゃないか。」 「ああ、ガルフォードさん!」 続いて、長い黒髪の少女と、金髪の青年も走っていく。 「行こう、覇王丸。」 長身の白人の女も、舌打ちした男に微笑みかける。 「おお。」 店の入り口には、一人、女が立っていた。 不自然に焼けた肌に、明らかに元は黒かったらしい赤い髪。 花魁道中の時に履くようなひどく底の高い革の靴、やたらに短いスカート。 つまらなさそうな顔が、大挙して押し寄せてきた異様な姿の彼らに訝しげに しかめられる。 「…ああ、今日は、大会だったっけ?」 覇王丸達から見れば、異常な姿に見える少女の口から、ひどくハスキーな 声が漏れる。 「まだ開店前だけど…いいや。入れば?」 片眉を上げ、彼らを疎ましげに見る。 「コスプレオッケーだからって、ここに来るまでは普通の格好で来てよね… お姉さん、おっさん、いい年なんでしょ?」 「おっさん!?」 「いい年!?」 シャルロットと、十兵衛の顔色が変わる。 抜刀しかねない二人の様子に、覇王丸達は慌てて店内に二人を押し込 んでいった。 「何だ、あの娘は…無礼にも程が有るぞ。」 不況気に、怒った声を出すシャルロットを、まぁまぁとなだめながら、 覇王丸はちらりと店の入り口の方を振り向く。 ぞろぞろと、入っていく一行の最後尾にいたアースクエイク。 「アンタみたいにでかい人、入るわけないじゃないのよ!」 鋭い一喝と共に、その巨躯が車が激しく行き交う往来へと蹴り出される。 ちょうど、4tトラックが走ってきていたこともあり、あっという間に、彼の視界 から肥え太った丸々しい姿が消えた。 「…まあ、良いか。」 シャルロットの機嫌の方が大事だ。 「…わぁ」 店内の様子を見回した一同は、さすがに嘆声を漏らした。 「こりゃあ、縁日より凄いんじゃないのか?」 「ここにいれば、さすがの我も目立たぬのう…」 ずるずるとしたきらびやかな衣装を着た天草四郎も、うろうろと珍しげに 見て回っている。 「これ、真蔵…勝手に動いては迷い子になるぞ。」 「だから我は天草だと…!!」 半蔵が言うとおり、店内は結構な広さの上に、様々な箱が林立しており、 ぞろぞろと見て回るようなものではなかった。 「ああ、姉様、あれ…見て見て、コンルがいる!」 「コンルにしては丸いんじゃないかしら…?」 「そうですね、目もついていますし…」 「あーっ、並んだら消えちゃった!?」 「おお、どんどん消えていきマスね!」 もう、どんどん見て回っているらしいナコルル達の声も聞こえる。 「ああーっ、クソ!このつぶれ白黒熊、ぜってーに取ってみせる!」 「頑張って、兄さん!」 「火月、もうちょっと奥の方がいいようですが?」 「黙ってろ、アニキ!」 白熱した声に後方を振り向けば、風間三兄妹がガラスの箱を前に集まり 何やらボタンを操作している。 ムキになって、大声を上げている火月に肩をすくめると、 「私は私で、別な物を取りましょう。」 蒼月は、その側方にあった箱に向かう。 「…ふむ、これは鞄でしょうかね?」 猿の姿をしたそれを受け取り、葉月は嬉しそうに微笑む。 それを見て、火月は更にヒートアップしたのか、ひたすらボタン操作に 夢中になっていた。 「大会の日はさぁ…」 「どわっ!」 急に声をかけられて、転びそうになる。 「全ゲームフリープレイになるんだよねえ…プライズ物でもさぁ。」 アースクエイクを蹴り飛ばしたとは思えない、相変わらずやる気のない声で 店員は言った。 「だから、時間まであんた達も楽しめばぁ?」 見れば、今この場に立っているのは、シャルロットと自分だけだ。 覇王丸は、気まずいような表情でこちらを見ている気高い女剣士に手を 差し出した。 「…楽しもうぜ?」 その、自分の手にそっと右手を差し出しながらシャルロットは呟いた。 「…ロシアの昔話のようでなければいいのだが。」 「は?」 「あの娘が言っていたじゃないか…時間まで、って。」 「?」 様々な姿の箱の間を巡りながら、シャルロットは言う。 「恵まれない娘が、、魔法の力を借りて、毛皮の靴を履いて舞踏会に 出るんだ…ところが、魔法は有限の力で娘は時間を迎える前に元の 家に逃げ帰る…そう言う話だ。」 「でも、その女の子は、時間中は楽しんだんだろう?」 「ああ…」 「だったら、楽しもうぜ。ほら、見てみな!」 裸の上半身は、王虎に違いない。 何やら一生懸命に、一つの筐体に向かい合っている。 「くう、中国の歴史を…!」 とか何やら、ぶつぶつと言っているのが聞こえる。 「ぐはー!積み込みか!?何でいきなり天和なんだ!!」 近づこうとすると、大きな悲鳴を上げて、悔しがり出す。 「何を悔しがっているんだ?」 と、二人で覗いた画面には、半裸の少女が得意げに雀卓の向こうで 笑っているのが映っている。 「…王虎」 「いや、これはだな…儂にできそうなのがこれしかなかったからで、その…」 赤くなった顔で、言い訳を並べようとする王虎がさすがに可哀相になり、 覇王丸は別な方向にシャルロットを引っ張っていった。 「もう…許せない!」 高い怒りの声に、跳ね上がりそうになる。 「動物を殴るなんて、許せないわ!」 「姉様頑張って!」 大きな画面で、熊と赤い道着の男が戦っている。 「ちょっと待って、ナコルル、これは…ouch!」 刀を抜いたナコルルに追いかけ回されているガルフォード。 続いては、カンガルーと般若の面を着けた男が殴り合い… 「やだ、閑丸君、刀持ってるじゃない!」 「僕が持ってるんじゃないですよ、これは!」 「やだやだヤダっ、捨ててくれなきゃ不公平だっ!」 操作盤を前に、二人並んで、リムルルが閑丸にまくし立てている。 「わ、わ、どうしたら…あっ!」 般若の面の男が、いきなり自らの腹部に刀を突き立ててその場に倒れた。 「やったぁ!あたしの勝ちっ☆」 「将来、尻にしかれるな、アイツ…」 同情の呟きを残して、その場を後にする。 比較的静かなスペースに来ると、そこのベンチで右京が一人座っていた。 「どうした、右京よ?」 「シャルロット殿か…いや、ちょっと空気が悪くて…」 青い顔で苦笑いする細面。 「だったら、そこにいたら余計にしんどいんじゃないのか?」 「え?」 「ほら」 右京のすぐ横で、店員が堂々と煙草を吸っている。 「うっ、ゲフゲフゲフ!」 たまらずに大きく右京が咳き込むのを不思議そうに見ながら、店員は煙草を 灰皿に捻り潰して立ち上がった。 「さぁて、練習練習…」 「練習?」 「だって、今日の大会、あたしも出るしぃ…」 ひときわ音と光の激しい場所に行き、店員は一段高い場所に上った。 ダン! 大きい、腹に響く音。 もう一度、ダン、という音。 やがて、音楽が流れ出し、それぞれに散っていた皆も集まってくる。 店員は、それまでののろのろとした気怠そうな動きが嘘のように、激しく ターンしたり足を踏みならしたりする。よくよく見れば、音楽と動きがリンク しているようだ。 「大会ってぇのは…踊りの会なのかい?」 「…」 尋ねた声は、完全に無視されている。 「それにしても激しい拍子だな…津軽の三味線のようだ。」 十兵衛が、顎を撫でながら感心している。 |