OP
疾風のようにガルフォード ガルフォード
疾風のようにガルフォード ガルフォード
ここは大江戸八百八町
今日も戦い続けて陽が暮れる
ジャスティスブレード 悪を斬って
ジャスティスブレード 正義の力
未来見つめて 走りだそう
刃の誓い 希望をのせて
人か 幻か
蒼い閃光
疾風のようにガルフォード ガルフォード
疾風のようにガルフォード ガルフォード
第一幕
「ガルぅうううううっ! 貴様! 寝るでないっ」
長屋中に響きわたる十兵衛の喝は、肝心な人間にはさして効果がなかったようだ。怒鳴られたガルことガルフォードにとっては、日常茶飯事、最初こそ飛び起きて謝ったものだが今はもうこのていたらく、である。
このていたらくとは、売り物の瓦版を布団替わりに熟睡中という助手にあるまじきこの状態をいう。
瓦版、そう、ここは瓦版屋であった。壁、床、天井、ひいては人間の頭の上まで、紙、紙、紙、である。その瓦版は当たり前だが全てが同じ内容だ。すなわち、時空忍者ガルフォードなるものの、大活劇である。
ついこの間も川に毒を流そうとした極悪人をちぎっては投げ、ちぎっては投げしたらしいのだが、そのあたりを脚色をまぜ娯楽として提供しているのが、今のガルの布団であるところの瓦版である。
「起きろっ! 起きぬかっ!」
版をする手だけをとめずに十兵衛は、叫んだ(まったく瓦版屋の鑑だ)。だが全く関係ないところで、その声に応えるように戸口から長い黒髪の少女がひょこりと顔をだした。
十兵衛のもう一人の弟子、もしくは助手のナコルル(通称ナコ)である。
「十兵衛先生、寝させてあげましょう。だってガルフさん、もう三日三晩眠らずで……」
「おナコちゃんっ!」
ナコルルの声を耳にするなり、ガルフは、間髪いれず『ぐぁばぁっ!』という擬音付きで飛び起きた。
「ガ、ガルフさん」
そのあまりの勢いに思わず引いてしまったナコルルである。
「うれしいなあ、長屋小町のおナコちゃんが俺の心配してくれるなんて。くぅ、もう、俺って大江戸一の果報者だよなっ!」
「お前なぞ、果報者ならぬ果物(パイナップルが良)で充分だ。ゆくぞ!」
「え?」
さっくり
どがしゃーんっ!
十兵衛の二ツ角羅刀は美しく決まった。もちろん、天井はぶちぬいた。
たちこめる土埃の中、にこやかな表情のままざっくり斬られて壁にぶち飛んだガルフだが、数瞬後には見事に復活し、十兵衛とナコルルとちゃぶ台を囲みなごやかにお茶を飲んでいた。
「いやぁ、おナコちゃんがいれると、普通のお茶でもこぉんなにデリィーシャス」
「ガルフさん、あの、頭割れてますけど……」
「大丈夫、こいつは儂の助手だ。頭蓋骨陥没骨折等(←ポイント)ぐらいで死にゃあせん」
「……(普通は死にます)」
ナコルルの雄弁な沈黙は誰にも伝わらなかった。
「……いやしかし、この前は怒りのあまり、体をまっぷたつにしてしまってなぁー、あの時はさすがの儂も焦った。焦った」
「本当にもう、『謎の黒子さん』が都合よく通りかからなかったら危なかったですネっ」
すでに話はエスカレートしていた。
「だがな、ガル、お前もこの時空忍者と上半分だけでも同じ名前なのだから、もう少しシャキっとできぬものか?」
「え、えぇっとぉ」
「正義の戦士、時空忍者ガルフォードさん、蒼い疾風……罪を憎んで人を憎まず! 優しく強く……素敵な方ですね」
間。
「ガル、何をそんな隅で、のたうっている?」
土間の片隅で、真っ赤になってのたうちまわっているところは、まるっきりゆでだこである。この場合真っ赤というのは羞恥による紅潮もあるが、ぱっくり割れた頭から流れ出る血というのが実は大半だったりする。
「え、そのぉ……、おナコちゃん、俺達まだその、若いしぃ、でもやっぱりぃ、ここはきちんと、結婚を前提にしたおつきあいをしたいという強い希望を持ちたいなと思う時もあったりする今日この頃なわけで……」
「何を言ってるんですか? ガルフさん」
「うっ」
バラしたい! バラしたいぞっ! ミーが時空忍者ガルフォードだということを! だがすまないおナコちゃん、ミーは、ミーは、影に生きる忍者なんだっ! その行動はあくまでも影にて人々の幸せを守るのが役目っ! そしてそれこそが君へのらぶらぶの表現なのさっ……
どげしっ
「何を涙流しながらけったいなポーズをとっておるんだ、お前は。さあ、さっさと仕事にとりかかるぞっ! 今日中にこれを刷り上げるのだっ!」
「はひ……」
時空警察以上のエリートである時空忍者も普段はかたなしであった。
第二幕
ここは、大江戸、ひいては神州壊滅をたくらむ悪の組織『あんぶろじあ様と幸せになる会』略して、『あん会』の内部である。悪の総本部らしく場所は鳥刺しも近寄らぬ富士の樹海のど真ん中で、安土城もかくやという豪華絢爛成金悪趣味の極地の五重の塔が深くたちこめた霧の中、偉容を誇っている。その地階には何人もの男女が飼われ、あん会の特産品、人血で染められた紅血布がつくられていた。
今、天守閣では、作戦会議(という名の他人のこき下ろし会)まっただ中である。
畳の上には四人の男女がいた。
すなわち、あんぶろじあの大神官ミヅキ。一番上手に座り、薄い笑いを面に張り付かせている。
ミヅキの右に座するのは、実質的戦闘指揮官の一人ヘル・シャルロット。
左を占めるのは、一匹狼なれどその戦闘能力の高さのため将軍の尊称を無理矢理押しつけられたキーバガミー将軍。
やや離れて機械博士ズィーガーがいる。
はっきりいって、恐ろしいイロモノ集団である。ヘル・シャルロットはさっきから化粧直しに余念がないし、キーバガミー将軍はもくもくと肩にズィーガー作戦闘改造カエルをのせたまま巨大さかずきで酒を口に運んでいる。
巨大なつくりものの腕をつけた黒衣のズィーガーは、なにやらうつむいてぶつぶつ呟いていた。と、ヘル・シャルロットがコンパクトから顔をあげずに、思いだしたように言った。
「また、時空忍者にしてやられたそうですね? キーバガミー将軍」
時空忍者とは彼らの面白おかしい天敵だ。たとえるならばその関係は某ネコとネズミに酷似している。
遠い未来からやってきたそいつらは時間の狭間に忍び込みながら、自分達時空犯罪人を闇から闇に葬りまくっている。表から表に取り締まるのが時空警察のつとめなら、忍者は裏街道まっしぐらだ。
「俺の敵は時空忍者などではない。あれはあれが勝手にやったことだ。俺はしらん」
「口では、なんとでも言えますね」
とてつもなく険悪な空気が二人の間を漂い始めていた。口元に白々しい笑いをはりつけたまま、それぞれの獲物を手にゆっくりと立ち上がる。
ふふふふふ
ほほほほほ
「仲間割れをしている時ではありませぬ!」
まさに鶴の一声。今のいままで静観していたミヅキが急に立ち上がって言った。
「よいでしょう。こたびのみっしょんはズィーガー殿にまかせます」
背中を丸め、他人を決め込み、壁にむかって器用にのの字を書きつくねていた男は、いきなり話をふられたことにより驚きのあまり、壁をぶちぬいた。
「かまいませんね?」
わらわらと現れた黒子が壁をあっという間に修復していくのを横目に、ミヅキが二人に念をおす。
「俺はあいつと戦えさえすればそれでよい」
「私も別に」
二人とも面倒くさいことは嫌いだった。
渡りに船だった。
「ではズィーガー殿だけに残っていただきましょう。あんぶろじあ様からお言葉があります」
ズィーガーの眉間の皺は深くなった。
第三幕
長い。すでに三時間は経過している。最後にと言ってからもうどれほどたったのだろう?
トップに立つものの常としてやはりあんぶろじあ様のお言葉は長かった。最後に、とか、これで終わりますがといってからすでに二十分は過ぎている。
「くれぐれも、わかっていますね? ズィーガー博士、あなたが少しでも妙な動きをとろうものなら、あの地下にいらっしゃる方のお命は保証できませんよ」
もちろん妙というのに壁をぶち抜くのは入らない。
「わかっている」
苦虫をかみつぶしたような顔でズィーガーが答える。
「ならば、よろしいのです」
ミヅキの高笑いを背中にざくざくと受けて彼は立ち上がろうとして派手にずっこけた。
足がしびれている。
当然のことながら手をつこうとして床はぶち抜いた。
土埃が舞う中、まともに顔面を畳に強打した機械博士ズィーガーの眉間の皺は、コインが挟めるほど深くなっていた。
第四幕
機械博士ズィーガーは、もちろん彼だけの実験室を持っている。城より少し離れた場所に立っているそれは変に未来的なつくりのくせに、なぜか金の鯱が頂点付近に立ち並び、門にあたいする部分の傍らには信楽焼きの狸が白衣を着てメスを握っている。
怪しい。
おおかたの人が感じるその感情を感じないのは唯一この場所の主だけであろう。玄関の引き戸をあけると人体模型のお茶くみ人形が動き回っている。天井はびいどろ張りで、水がたたえてあり、その中を戦闘カエルのプロトタイプ(完成品はキーバガミー将軍が持っている)やら人面魚やらが泳いでいる。
そんな中でもさらに実験室は怪しさ大爆発だった。
灰色の壁と床、意味もないスモークと七色のライト、がらんと広い約二十畳ほどの部屋にピアノが一台。
あの手でどうやってピアノを弾くというのだろう。
当然の疑問である。だが、それを口に出して言ったものは未だかつていない。ズィーガーがゆっくりと楽器に近づく。
「あいつだけは使いたくなかったが、これも我が姫のため、俺はミヅキに、あんぶろじあに仕えねばならぬのだ」
どんなにかっこうよく苦悩していても、上半身裸でどでかい機械の腕をもち、こんな部屋にぽつんと一人いる姿は不気味としか形容のしようがない。
と、いったいなにがどうしたものか、部屋にパイプオルガンの音曲が流れた。
それが重々しくこだましていく。
猫ふんじゃったー
猫ふんじゃったー
猫ふんじゃったー
と、同時に部屋の一角の壁がメリメリと音を立ててはがされていく。厚さは三寸ばかり、そんな分厚い金属がまるで紙のように破られていく。その隙間から巨大な男の手が、腕が、上半身が、姿を見せる。もちろん寸分違わない色モノだ。
「あらわれたな、我が機械怪人アースクェイク!」
「あらわれてやったぜぇ! グヒッ。まずは復活の一発だ」
ぼひっ!
破滅の轟音が密閉された部屋に響きわたった。
スカンクバーストに侵され薄れゆく意識の中でズィーガーは、想像してみて下さい柳生十兵衛のクイズハイ&ロー……などとまったく別のことを考えていた。
第五幕
「怪人だぁ! 機械怪人がでたぞぉっ!」
「日本橋から神田に向かってるぞぉっ!」
「おお、きかいかいぢんが見えるとは、めずらしやめずらしや、ありがたいこと、ありがたいこと」
「早く! 早く買いにいかねぇと、機械怪人手ぬぐいが売り切れちまうぞ!」
「さすが神田の紺屋町、江戸っ子だねぇ。ほれ、でもこの間の浅草激辛きーばがみぃ饅頭が……」
「おいらはやっぱり、へるしゃるろっと浮世絵だぜ! しゃるさま〜〜♪」
「ふっ、甘ぇなお前ら。見ろ! すーぱーぷれみあむぐっず!ミヅキ印の煙草でぇい! いい仕事してるだろっ!」
「NOぉぉぉぉぉ! ガルフォードグッズは、ないのかーっ!」
「ばかものっ! いくぞ!」
「あ」
ナコルルは止めることができなかった。十兵衛の条件反射は再びガルフを地に沈めた。
「……尊い犠牲だった。しかし、ガルっ、儂はおまえのことは決して忘れぬ。必ずやおまえのために、完璧な取材をものにしてくれようぞっ! 草場の陰で見守っていろ!」
「勝手に殺さないで下さいぃぃぃ」
「いいんだよ、おナコちゃん。俺は、俺は、十兵衛先生のためなら……さあ、俺にかまわず取材に行ってくれ。機械怪人あるところ時空忍者ありだろ? いくんだっ」
「はい、じゃ、行って来ます」
あっさり。
「え……? あの? おナコちゃん?」
ガルフォードの眼前で、二人は二ツ角羅刀と、アンヌムツベを繰り返すという周りの被害は甚大だが高速で移動できるという荒技であっと言う間に消え去った。
一陣の、風。
「ふっ、わかっているよおナコちゃん、ユーは恥ずかしかったんだね! さてと、こうしちゃいられない!」
ガルフォードは、懐から携帯電話に酷似したものを取り出した。いくつかのスイッチを押すとランプがオールグリーンになり、するするとアンテナがのびる。
「王星号! 聞こえるか?! 王星号! よぉし聞こえるな! すぐこい!」
再びいくつかのスイッチを押すガルフォードの足下に犬がうずくまる。
「チャムチャム! こちらガルフォード、時空忍者江戸時代担当への三号だ! すぐにタムタム号を出してくれ! おい、聞いてるのか?」
『はぁい、あたし○カちゃん。今日はパパと一緒に海へ行くの』
「チャム……そんなあからさまに居留守を使うな」
「ばななんをくれたら、動かしてもいいんダナ。でもこの前のみたく熟れてないばななんはだめなんダナ」
「わかった、わかったから。場所は日本橋上空だ」
「わーい、ばななんばななん!」
ぶちんっ。交信終わり。
不安だ……
こめかみに一筋たらりと汗を流してしまった時空忍者である。思わず立ちつくす彼の耳にやっと王星号の勇ましいかけ声が入ってきた。
えっほ
えっほ
えっほ
前を覇王丸、後ろを王虎がつとめる宝仙寺駕籠である。これが時空忍者の愛機王星号の正体であった。本来なら格好よく馬か何かで乗り付けたいところだが、この当時江戸で町民が馬に乗ることは禁じられている。
時空忍者は律儀であった。
CM
悪の組織『あんぶろじあ様と幸せになる会』は、君のチカラを必要としている!
年齢・性別・学歴いっさいかんけーなし。
な、なんと! 週休6日制で昇給は年3回!
命の保証はないけれど、そんなこと気にするキミじゃないよねっ!
さあ、君も『あん会』に入って、ステキな悪の生活をエンジョイしないか?!
今なら幹部ヘルシャルロット様の浮世絵つきだっ!
CM終了
第六幕
「じゃ、俺たちこれで帰るわ」
「早く切り上げて儂と大陸へ渡るのだ」
出番少ねぇなどとぶつぶつ言いつつも、帰っていくアニキな町駕籠の後ろを見送り、ガルフォードは防火水桶を探す。
もちろんその陰で変身だ。
「蒼射!」
この言葉により彼は瓦版屋ガルフから、時空忍者ガルフォードに0コンマ03秒で変身するのである。日本橋上空のタムタム号からの蒼い光が一瞬だけ全身を包み込む。その直後には、江戸の町からおもしろいほど浮き上がった人物がたたずんでいた。
珍妙なまでに派手派手しくメタリックな輝きをもつ忍者装束がこれほど似合う男はそうはいない。
誰に見せるでもない決めポーズをつけ、彼は人だかりがしている方角を目指して走った。
と、その姿を見つめている人影がある。ガルフォードの青とは違い、全身黒ずくめであった。見事なまでの穏行の術で時空エリートたる時空忍者にもその存在をつかませない。
おおかたの予想通り彼は彼で、ガルフォードの上司であった。今日もきょうとて海のように、深く厳しく見守っているだけ、の服部半蔵である。
第七幕
「グヒっ、近づくと、この集団用駕籠(別名バス)に乗ってるガキどもを殺すぜ」
人垣が取り囲んでいるのは、魔界幼稚園送迎用駕籠であった。その駕籠の窓から人間離れした大きさの男が身をはみ出させ、鎖がまを振り回している。
「おい、おまえ魔界幼稚園って知ってるか?」
「佐渡島の地下にあるって話だぜ」
「佐渡……どこから来てどこに帰ろうとしているんだ、あの駕籠は……」
「むくろぉぉぉぉ! へどらぁぁぁぁ!」
野次馬する人々の中で、一人真剣な者はどうみても人間をやめている。
「なんかよくわからんが、子供たちには手を出すなー」
「要求はなんだー?」
「お宝をよこせーっ」
らしくなくまっとうな答えに一気に場は不穏な空気に包まれた。緊張が走る。
そこにっ
「ひとおーつ! ひとよひとよにひとみごろおー!」
「や、屋根をみろっ」
「ふたーつ! ふじさんろくにおーむなくぅー」
「犬だ!」
「みーっつ! 以下略ーっ!」
「人間だ!」
「ふふふ、驚き桃ノ木山椒の木、いっきに時を渡りきり! ついにきたきたついにきたっ!」
「いや、変態だっ!」
時空忍者ガルフォードは最後を決め損なって足を滑らせ地面に激突した。
「み、ミーをここまで傷つけるとは、やるな、見物人A……」
「変態ぃぃぃぃっ! 頼む! わしのかわいいかわいいかわいいざくろにへどらにむくろを助けるケ!」
ざくざくざく
「喉元に武器を突き刺しながら(本人は襟首をつかんでいるつもりだ)頼むのはやめるぅー」
「ちっ、もろい奴だケ」
そのころのピーピング服部。
『がんばれ、がんばるんだガルフォード。この苦労を乗り越えた時、おまえは真の時空忍者となると! 私は根拠はないが確信しているぞ』
やはり長屋の陰から海の用に深く厳しく見守っているだけである。
「お、思わずボロヨレになったが、このくらいじゃミーの熱くファイアーするハートはクールダウンしない! エネルギー充填120%! 練気完了! くらえミーの超絶奥義! メガストライクドッグ!」
どこがお前の超絶奥義ぢゃいっ!
とつっこむ人物がこの場にいなかったのはガルフォードの幸運であろう。とにかく本人ではなく犬の超絶奥義だったが、その威力にJAROは必要なく、アースクェイクは悪役の悲しい常としてパピーに粉砕されてしまった。
「ここに一つの悪が滅びた。だがしかし、いつ第二第三の悪が現れないとも限らない!」
時空忍者はシメに入っている。
光線の差込を計算し、一番かっこよく決まる角度で駕籠の傍らに立ったガルフォードは直後肉塊に押しつぶされた。何のことはない機械怪人が倒されたと同時にむくむくむくと巨大化してくれたのだ。その三段腹を形成する見事な脂肪が余裕で立つ彼を地面に引倒したというわけである。
「がるちゃん、ぴーんち。いっくよぉ! 巨大タム兄ちゃんごーっ!」
もう一体の巨大破壊者を受け入れて本日の日本橋界隈は不幸であった。
第八幕
巨大タムタムコクピット内部。脂肪の塊に圧壊寸前だったガルフォードはなんとか無事収容されていた。しかし、それらしい計器の光に照らしだされた顔はかなりへばっている。
「がるちゃん、大丈夫?」
「ダイジョーブ! 正義は勝つ! 許さないぞ奇怪怪人! この時空忍者の正義の剣を受けて今度こそ完全に消え去るがいい!」
『アハウ・ガブル』
ちゅどぉぉぉぉん
あっさり
すっきり
きっぱり
まったり……以下略。
さいわいなことに今度もどこが剣ぢゃいっ! とつっこむものはいなかった。
第九幕
再び戻って(本当にガルフォードは大急ぎで戻って)瓦版長屋の前の通りである。木戸を背に座り込んだままのガルフォードの前に二人が立っている。
「じゃ、ずっとここで倒れてたんですね」
「そうなんだよ、おナコちゃん」
「ったく毎回毎回毎回、おろかものが、まあこの儂がちゃんと取材をしてきたがな」
「毎回毎回毎回十兵衛先生がいくぞ、で斬ってしまわれるせいだと思うんですけど」
「ナコ、真の男はそのような細かいことにはこだわらないものなのだ」
「細かい……?」
彼らとは思考と認識が違うらしいと思い知る一瞬である。
「とにかくなにごともなくて本当にヨカッタです」
「「あったんだよ(です)」」
上段突き
猫爪突き
なんのかんの言いつつもなじんでいるナコルルであった。
時代劇、ボケをかまして大団円(字余り)
瓦版長屋は今日も晴れである。
第十幕
数旬前は日本橋だったペンペン草の一本だけが奇跡的に生える巨大な瓦礫の地に二人の男が立っている。一人は未だ若い総髪痩身の男、もう一人は僧衣の小柄な老人。
老僧がちょい、と網笠をあげる。
「また、逃したのう、うっきょん」
「老師、私は右京、です」
「気にせずともよい、うっきょんを儂は変な名前などとは絶対に思わぬでな」
「……」
ああ、いつになれば、究極の花、『幸せをもたらすと言われているどこかでひっそり咲いている伝説の七色の花』、もしくは『忘れられない衝撃をもたらすと言われているどこかで堂々と咲いている巨大な、らふれしあの花』の行方を知るという時空忍者に会うことができるというのだろう!
花を探して三千里、右京の旅はまだまだ続く。
ひとつの戦いは終わった。
しかしその主隗あん会は未だ健在である。
あん会を殲滅するその日まで、
ゆけ、ガルフォード。
戦え、ガルフォード。
正義は君だ!
終
ED
刷りかけの瓦版はそのままに
格子戸開ければ風の音
目を閉じればこの長屋
修羅場という名の
地獄になるさ
タイムリープ
眠気ざましの唐辛子
タイムリープ
こめかみ張り付けて
今風になり
思い通りに
逃げて しまえば
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