「おっはよー!…あれ?みんな何かあったの?」
ボクが教室へ駆け込むと、クラスの友達が朝からざわざわと騒がしかった。勿論ボク達も今年から3年生になったって事で、新学期が始まったばかりの頃はそう言う風景も珍しくは無かったけど、今はそれから1週間以上が過ぎている。現に昨日はごく普通の一日だった。ボクは机に鞄を置くと、生徒会長でもある1年からの親友に声を掛けた。
「ねぇねぇ葵。みんなどしたの?」
「あら、おはよう小蒔」
ボクの一番の親友である葵が、にっこり笑いながら挨拶してきた。うーん、相変わらず葵は綺麗だなぁ。まさに学園の聖女って名前がぴったりだね。しかもただ綺麗なだけじゃない。生徒会長を務めるくらいだから頭だってとっても良いし、運動神経だってかなりのモンだよ?そのくせ全然気取ったところとか無くて誰にでも優しい。まったく、男の子が放っておかないわけだよね。そう言えば隣のクラスのアン子が、葵宛のラブレターが通算100通目を突破したって言ってたっけ。
「何をニコニコしてるの?」
葵がちょっと首を傾げて訊いてきた。あ、思い出し笑いが顔に出てたかな?
「何でもないよ。それよりみんなどうしたのってばッ」
「うふふ、今日このクラスに転校生が来るのよ。みんな気になるのね」
「えーッ!?転校生!?こんな時期に!?だってボク達3年生だよッ!?それに始業式が終わってもう1週間も経つのに」
「そうね。きっと色々事情も在るのでしょうね。でも新しいお友達が増えるのは喜ばしい事だわ。私もどんな人が来るのかは興味が在るわ」
「おっ、もしかして格好良い男の子が来る事を期待してたりして」
「も、もう…小蒔ったら」
へへッ、葵ってこういう冗談を言うとすぐ真っ赤になっちゃうから可愛いな〜。ま、そう言うボクもちょっと気になったりしてるんだけどね。
でももしかしたらその時から感じていたのかも知れない。
この出会いが特別だって事に。
キンコーン♪カンコーン♪
HRの開始を知らせる鐘がなり、みんなが慌てて席に付く。一瞬遅れて教室の入り口が開いた。紅いスーツを着た金髪の凄く綺麗な外人の女の人が入って来る。ボク達の担任のマリア先生だ。いっつも時間に正確なんだよね。
そしてその後から1人の男子生徒が入って来た。
その瞬間、教室内の空気が止まる。
スラリとした長身の綺麗な男の子だった。…男の人に綺麗って変かな?でもそう言う表現がぴったりなんだ。柔らかそうな黒い髪とかすっきりした顔付きとか…。でも一番目を引くのが長めの前髪の奥から覗く不思議な魅力のある瞳だった。
クラスのみんなの表情は想像がつく。きっと女子はポーッと見惚れているんだろうな。そして男子はやっかみながらも惹き付けられているんだと思う。
でもボクはもっと違った感じで彼の事を見ていた。
一目惚れ?違うよ、そんなのじゃない。
既視感(デジャヴュ)…って言うのかな。
初めて会った筈なのに、遠い昔から知っているような、凄く大切な何かを見ているような、そんな気持ちだった。そして――
「緋勇龍麻です。よろしくお願いします」
それが全ての始まりだった。