HIYUの奇妙な冒険



声  『GOOORRUUUU!!』
 ギャン
 ドドド
深き者「この野郎を喰うのは俺だぜ――ッ軟骨がうめーんだよ 軟骨がァ〜〜〜ッ!!」
 クルッ
龍麻 「新手の深き者ッ!」
 フッ 
深き者「はっ!?」
龍麻 「いつの間にか水岐涼が…。僕が振り返ると同時に僕の背後へ回っている!」
水岐 「出てくるんじゃあァない…お前らァ雑魚はいいッ!」
 ブリョウッ
深き者「きゃん!」
水岐 「九角様!!この少年は中々根性の据わった男ォ。この水岐にこの者の命の幕を引かせていただきたい…」
九角 「(フン!この世への絶望…しかし深き者となった今も詩人としての誇りだけは残っているとはな。この九角にとっては忠誠さえ誓えばどうでも良い事だが)好きにしろ」
醍醐 「くっ、水岐涼!なんと猛然たるパワー!しかも残酷性十分!」
京一 「全身からみなぎる自分の能力と戦闘への誇り高き自信!」
龍麻 「奇妙な気分だ…新聞で読んだ詩人水岐涼が僕の前に怨念を抱えて向かってくる!」
醍醐 「呼吸を整えろッ!筋肉をリラックスさせろッ!」
水岐 「URYYYAAHHH―――ッ!!」
龍麻 「な…なんだッ!?両腕を後ろへ回しているぞ。どっちの腕で攻撃して来るんだ!?それとも脚かッ!?」
京一 「ひーちゃんッ!危ない、逃げろッ!!」
 意外!それは唾ッ!!
龍麻 「ウアアアッ!」
水岐 「ほう、勘のいい奴。僕の「水吐き」に気付くとは…。面白い」
 ドッボーン
京一 「ひーちゃんッ!」
醍醐 「ま…まずいぞ!水中ではッ!水中では呼吸が出来ない!つまり『発勁』が出来ないッ!!」
京一 「す…水角ッ!さ…最悪ッ!ひーちゃんを救いに行けないッ!」
九角 「フン、勝負はついたな。水中は水岐の独壇場…。この九角…最早この場にいる必要無しッ!いよいよこの東京の街都民全員を鬼にするッ!あと一昼夜の内にッ!そしてこの街から鬼が日本中に広がるだろうッ!!」

龍麻 (気功法は血液中の酸素で勁の一つ一つを作り上げていくもの…。欲しい!たった一呼吸ッ!吸い!そして吐く一呼吸ッ!一呼吸でいいのだ!肺の奥まで染み透る空気ッ!そうすれば『発勁』を起こせるッ!)
水岐 「さあ、水面まで泳げよォ。君には呼吸のハンデが在り、僕には身体の重さのハンデが在るゥ!剣は使わん!これは勇者としての決闘だァ!!」
龍麻 (この距離、泳ぎのスピード!彼より早く水面に出られるかッ!?僕に勝機はッ!?)
水岐 「さあァ!溺れ死なん内にィ何とかしてみろォ!!」
 断末魔の一瞬!
 龍麻の精神内に潜む爆発力がとてつもない冒険を産んだ!
 普通の人間は追い詰められ息が苦しければ、水面に出ようとばかり考える。
 だが、龍麻は違った!
 逆に!
水岐 「何だこいつゥ!?ま…まさかッ!」
 龍麻はなんと更に!
 下水へ潜った!
犬神 『なに緋勇?桜井がお前の腕を抱き締めて放さない?緋勇、それは無理矢理引き離そうとするからだよ。逆に考えるんだ。「あげちゃってもいいさ」と考えるんだ』
 ゴボッ!ゴボッ!
龍麻 「(この辺りはよく下水が詰まる…。つまりビニール袋が捨てられていると言う事…。中に空気を逃がさないまま沈んでいる袋があるはず!)あ、あった!!」
 ゴバァ
龍麻 「これだ――ッ!」
 ゴボン
水岐 「!」
龍麻 「一呼吸あれば!刻むぞ血液のビート!」
水岐 「こ…こいつ!」
龍麻 「水中での闘いが不利になったのは君のほうだ!たやすいぞッ!発勁が水中を伝わるのはッ!」
 コオオオオオッ
龍麻 「おりゃああーッ!!」
水岐 「うおおおおおおッ!!」
 ボグォアアッ
龍麻 「うぬうう…水中を伝わる発勁と同じ速さで一瞬早く水上へ泳ぎ逃れるとはッ!素早い!『秘拳・鳳凰』は水岐の額をかすっただけか…!」
 ゴゴゴゴゴ
水岐 「九角様が…僕に〈力〉与えくださり、この男と闘わせてくれた事に感謝とこの上ない名誉を感じる!この男は勇者の素質十分!もう水中というハンデの上での闘いは終わりだァァ!今度は能力と能力!技と技!精神と精神!君、最大を尽くしこの水岐涼と闘えィィィィ!!」
龍麻 「九角に操られながらも生前の『誇り』を忘れてはいない!そしてその『誇り』は終末への、破滅への『誇り』ッ!」
水岐 「URYYYAAHHH―――!!」
龍麻 「震えるぞハート!燃え尽きるほどヒート!!刻むぞ血液のビート!『秘拳・黄龍』!!いやあぁぁーッ!!」
 ギュキュウーン!!
京一 「やったッ!この音!ブ厚い鉄の扉に流れ弾が当たったような音…。何時も聞く『発勁』が流れる音だッ!!」
龍麻 (い…今までの怪物とは違う男…水岐涼――彼の生い立ちとその精神を知っているだけに…。でも、これでいいのだ――彼も人間を変生させ、仲間を増やす深き者!やっつけなくてはいけないんだ!)
 バリン
 ドシューッ!ドシュ、ドシュ
水岐 「僕は…詩人水岐涼!これしきの痛みッ!へこたれぬわッ!!」
龍麻 「…………!!」
京一 「見苦しいぜ水岐ッ!そんなに醜くなってもよォ、深き者としての殺意が消えず襲ってくるなんてよ!!」
醍醐 「!?」
京一 「なに−ッ!?ひーちゃん、何をしているッ!躱すか攻撃するかしろッ!!」
 ドヒャン
 ピタアアァァ
京一 「いったいこれは!?2人とも一体ッ!?」
龍麻 「君は今…『これしきの痛み』と言った…。『痛み』…と。君は『痛み』を感じているッ!」
水岐 (ニヤリ)
 ズシャッ
醍醐 「水岐の肉体は『発勁』を食らった事によって崩れつつある…。だが、同時に『痛み』を取り戻している!つまり人間としての『痛み』を!『発勁』は彼の深き者としての肉体を滅ぼすと同時に、高潔な人間としての魂を甦らせたのだ!!」
龍麻 「だから僕は君との戦いを止めた…。だから君は攻撃を途中で止めた!!」
京一 「水岐の顔!あれはさっきまでの怒りと憎しみに歪んだ顔ではないッ!母親と会話する息子のように安らいでいる顔だッ!!」
水岐 「君…僕が攻撃を途中で止めると…。そこまで信用して攻撃してこなかったのか!そこまで人間を信用できるのかッ!――ぐあうぅ!フフフ、この『痛み』こそ『生』の証し。この『痛み』があればこそ『喜び』も感じる事が出来る。これが人間か…。奇妙な安らぎを僕は今感じる。もう人間への恨みはない…。こんな素晴らしい男に、こんな暖かい人間に最後の最後に出会えたから…。母なる海へと還ろう…。友人よ、君の名を聞かせてくれ」
龍麻 「緋勇龍麻」
水岐 「緋勇君…この僕の剣に刻んである、この言葉を君に捧げよう!LUCK(幸運を)!そして君の未来へこれを持って行けッ!PLUCK(勇気をッ)!!」
龍麻 「水岐ッ!!」
水岐 「フフ…」
 ボオシュウーーー…
龍麻 「何という皮肉!何という奇妙な運命ッ!そんな!…魂を救うために殺さなくてはいけないなんて!!人間を憎んで変生したとはいえ、こんな誇り高い人物を!高貴なる心の持ち主を!!どす黒い狂気に変える、憎むべきは鬼道衆!許せないのはそれを操る九角ッ!!」
醍醐 「龍麻ぁーー!後ろだ!!」
龍麻 「…水角…」
水角 「フン!この腰抜けがッ!〈力〉を手に入れた人間の恥さらしよ!」
醍醐 「やれやれ…。こいつの魂を九角の呪縛から解き放つのは、骨が折れそうだな」
水角 「笑わせるな!骨ごとひき肉(ミンチ)にしてやるわ」










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