「フゥ……」
アタシは通りの真ん中で思いっきり溜息をついた。
そりゃあ、そうよね。やっと高校を卒業して大学入学までの間、たっぷり遊ぼうと思っていたのに、1人で渋谷なんかブラついているんだから。しかもイイ男がいたらカモろうとか思ったけど、全然居やしない。
思わず高校の時の仲間が思い浮かぶ。結構イイ男多かったわよね、『アイツ等』は。
でも京一は中国へ行っちゃうし、劉も同じ。醍醐や紫暮は遊ぶには堅すぎるし、霧島はお子様過ぎる。如月はジジむさいし、村雨はホントに親父だし、御門の厭味に付き合うくらいなら女同士で遊んでた方がよっぽどマシよね。アランはこの前一緒に遊んで大恥かいたし、コスモレンジャーは問題外。大体アイツ等、いまだにアタシの事『悪の女幹部』とかワケの分からない事言ってるしね。壬生は忙しくて遊ぶ暇も無い見たいだし…。なにより、一番の本命だった龍麻よ!なんであんな子供っぽくて男の子見たいなお嬢ちゃんがイイのかしら。胸だってアタシの方がずっと大きいのに。てっきり美里さんがライバルだと思ってたんだけどなぁ。もうすっかりラブラブ状態で遊びに誘う事も出来やしない。で、後はと言うと…
「よう、藤咲の姐さんじゃねぇか!!」
コイツだ。
アタシが渋谷で遊ぶのが好きで、コイツの地元だからしょうがないと言えばしょうがないけど、最近本当によく逢う。
「珍しいな、1人で渋谷かい?ヒマだったら――」
「確かにヒマだけど、アンタと遊びに行くほどヒマじゃないわよ」
アタシはピシリと言ってやる。
まあ、正直それほど悪くはないと思うけど、イマイチ趣味じゃない。とりあえず、その黄色い箒頭はどうにかしなさいよ。
「何だよ、ツレねぇなぁ。そんな事言わねぇで。これからライブやるんだ、見に来ねぇか?」
ライブ?なるほどね、よく見れば確かにギターなんか背負ってるわ。
「オレ様の最高にカッコイイとこ見せてやるぜ」
出た。コイツのお得意、根拠の無い自信過剰。
「あのね…アンタ馬鹿じゃないの?なんでアタシがわざわざ渋谷まで来て高校生のバンド活動なんか見に行かなきゃなんないのよ。そんなモノ、アタシの地元の高校生だっていくらでもやってるし、大体観てたって面白くもなんともないわよ」
その態度にムカついたから、思い切り辛辣に言ってやる。
と、雨紋の眼が急に細まった。
流石に怒ったかな。ちょっとばかし反省。顔には出さないけどね。
「おい、聞きもしないでふざけた事言うなよ。俺は…俺達は音楽に命懸けてんだ。そこらのアマチュアと一緒にすんじゃねぇよ」
あ、マジで怒ってる。コイツ闘ってる時だって結構余裕ある表情(かお)してたから、こんな真剣な顔って珍しい。命懸けてるって言うのもまんざら嘘じゃないかもね。根拠の無いってのは訂正しとこかな。
「…いいわ、どうせヒマだし聴きに行ってあげる。その代わり、それがアンタの言う『そこらのアマチュア』と同じレベルだったら、判ってんだろうね?」
あ、なんか不敵な顔で笑ってるわ。ちょっと生意気。
「ヘッ、任せときな。思いっきりシビレさせてやるぜ」
「そんな事言って、いきなり『落雷閃』とかかますんじゃないわよ」
「…………姐さん、それはあまりにもつまんねぇゼ…………?」
「う、うるさいわねッ!!」
悪かったわね!アタシだって自分で言ってつまんないと判ってるわよ。あ、顔が朱くなって来ちゃった。
「姐さん…?顔、朱いぜ。…まさか自分で言ってて恥ずかしくなったのか?」
あ、ばれた。
「うるさいって言ってんのよッ!ほら、行くんなら早く行くわよッ!」
「わ、わかったよ…………プッ…ククッ……」
雨紋の奴、まだ笑ってる。あーもう、ムカつくわねッ!!
その2時間後、アタシはライブへ行った事を思いっきり後悔していた。
つまんなかったのかって言うと……残念だけどその逆。アイツってば本当にカッコ良かった。まだ、胸がドキドキして収まらないくらい。歌も曲もガンガン身体に響いてくるし、何よりアイツ自信が凄く活き活きしてた。周りの客もみんなステージに吸い寄せられていた。そして、何時しかアタシは文字通り『CROW』――歓声を上げてた。
で、それの何処が後悔するのかって?…なんか悔しいじゃない?アイツの言った通り本当にシビレちゃったなんて。ああ…アイツの自慢げな顔が目に浮かぶわ。
そうこう考えている内に、アイツがやって来た。
「よう、姐さん。どうだった、オレ様のライブは?」
…思った通り自信満々って感じ。でも、カッコ良かったのは確かなのよね。
「…まあ、悪くはなかったわ」
悔しいからわざとそっけなく言ってやる。
「チェッ、何だそれだけかよ」
あからさまに残念そうな顔になる。ちょっとスッとしたかな。
「じゃあ、これからバンドのメンバーと打ち上げやんだけど…やっぱ来ねぇかな?」
打ち上げか…どうしようかな…?。結構行く気にはなってるけど、すぐにOKするのも癪だから、ちょっと考えるフリして答えてやる。
「…まあ、いいわ。どうせヒマだし」
「マジ!?ハハ…まさかOKしてくれるとは思わなかったぜ。あ、もしかしてライブ見てオレ様に惚れたのかい?」
あ、また生意気な事言ってる。
ちょっと腹が立ったから服の襟を掴んでぐっと引き寄せた。
「何バカな事言ってんのよ。たまたまヒマだからに決ってんでしょ」
まあ、これは半分本当。でも…。
「ま、キープくらいはしといてあげるわ」
そう言うとアタシは引き寄せた顔に素早くキスをした。
軽く触れるだけのささやかなキス。
アハハハッ、流石のコイツもポカンとした表情(かお)して固まってるわ。
「……へへッ、すぐに本命にしてやるぜ」
暫く経ってそう言ったコイツの顔、今まで以上に自信に溢れた顔してる。
この様子なら、この先結構楽しませてくれそうね。
フフッ、アタシを何処まで本気にさせられるか、頑張りなさいよ『雷人』――